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しょおと

第1章 後ろの正面だぁれ?


最近、三成様は下を向いてばかりいらっしゃる。
猫背に更なる磨きが掛かり、まるで後は死ぬという義務しか残されてない衰弱した老人のようだ。
死ぬことしか残されていない…というのは、強ち間違ってはいないかもしれないが。

「三成様、そんなに下を向いては、上から降ってくる鳥のフンも避けるに避けられませんよ」
「貴様は、この私がその様な愚鈍なマネをすると思うのか」
「この間、その素敵な前髪にこびりついてましたよ」
ギロリと鋭い目に射られた感覚。この人の目は本当に人一人簡単に殺せそうで、とても恐ろしい。

「……貴様は変わった女だ」
「あら、そのようなこと初めて言われました」
「周りがそう言わないだけに違いないな」
「三成様が女性にお慕いされない理由がよく解りました」
「……」
「今日は良い天気ですね、三成様」
「話をそらすな」

今日の三成様はよくお喋りになる。しがない女中の言葉に耳を傾けるなど、太閤様がお亡くなりになる以前のことであったのに。

「……上をむいて何になる」
「そうですねぇ。まぁ、少なくとも鳥のフンは避けれますよ」

ニコリと笑い掛ければ、フン、とそっぽを向かれた。
フン、て…三成様は、絶対狙って言ってないんだろうなぁ。

「太陽など…眩しいだけで不愉快だ」

多分、三成様は今、あの胡散臭い狸のことを思い出しているのであろう。
力強く握られた手から赤い水滴が一粒流れ落ちた。
その手は皮と骨でしか構築されていないようにも見える。

「そんなことありませんよ。太陽は私達自身の身体だけで生成することができない栄養素を作る事ができるんですよ」
「またか、貴様の蘊蓄(うんちく)は聞き飽きた」
もう十分だ、と言うように三成様は溜め息をつかれた。
「三成様に一番必要な情報だと思いますけどね」
負けじと反論すると、私の発言が気に食わないのか三成様は拗ねたように、顔をムッとさせた。
最近は人形のように怒りや憎しみ以外の感情を露にしなかったはずなのに、今日の三成様は自棄に素直だ。
「朝餉はすべて食べた」
「そうですね。珍しいこともあるものです。と言ってもここ3日程水もお飲みになっていらっしゃらなかったですケド」
グッと黙り込む三成様に、少し虐めすぎたか…と反省。
何分話すのが久しぶり過ぎて、限度が弁えられなくなってしまっている。

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