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第1章 境界上にて邂逅す


「ねえ!」
声に頬を叩かれた。さすがにびっくりして目を見開く。
何やら夢から覚めたような。でも暫く夢の中の心地がして、頭が働かない。
「どうしたの?」
声の主は、幼い……というには成長しているのだが……少年だった。ということは、つい先程、無遠慮にもうたた寝を妨げたのは彼だろうか。


うたた寝?

何か夢でもみていたのだろうか、わたしは。
クモワシの卵を取りに谷底まで飛び降りた。それから先は……なんだっけ。
獲物はきちんと手にあるのだから、無事に上っては来たんだろう。

再び少年の元に意識を戻す。黒い髪と、純粋そうな黒い瞳。輝く笑顔で、頬は紅潮している。それだけで、ぐん、と惹きつける不思議な魅力があった。


――目を見開かずには居られなかった。理由は、自分でも判らないが。


少年の隣りには、少しばかり生意気そうな、それでも同い年くらいの少年と、後ろには、それよりは年上の二人が。
少年は銀に近い白髪。同じく薄い色彩の瞳で、刺すように、それでもどこか興味深げに視線を寄越す。
後ろの二人の内年下と思われる方は、柔らかな金の髪、茶色の瞳。顔の造形は非常に整っている。中性的な佳人だった。じっとこちらを見つめて……驚いている様子だ。
背の高い青年は、黒い短い髪と、情熱を宿す、黒と青の中間の瞳。したたかに殴られたか、頬が腫れている。向けられた笑顔はあからさまに軽いが、親しみやすそうな人物だった。




「オレはね……」


少年が話している声が、遠くから聞こえる。わたしの中は衝撃で一杯で、他の事は完全に閉め出しを喰らっている。





――あの時声が聞こえた。漆黒のうたた寝に揺らぐ夢の中に届いた声。




彼等、なのだ。泡沫の夢の中で、漆黒の淵で、会いたいと願った。

嬉しかった。彼等に会えた事が、この上なく。――光はわたしを導いたのだ。
それはただ寝ぼけていたってだけだったのかも知れない。あるいは夢の続きなのかも。
だがこの不可思議な感覚は、確かなものだった。
わたしは確かに、彼等に逢いたいと、そう願っていたのだ。


そして、彼等は一体誰なのか……わたしは知らない。でも、知っている。


「オレはゴンっていうんだ。君の名前は?」
わたしの名前、それは、

「エレン」




こうして彼等と出会ったのである。

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