第5章 春の少女
「先生!すみません、ちょっと!」
「なんだー及川、トイレか?」
「そうです!」
「長い方か?」
「それは違うけど、長くなると思います!!」
携帯だけを握りしめて、及川は教室を飛び出す。
階段を駆け下りて、渡り廊下を抜けて、先程見た、少女が立っていた場所へ駆けていく・・・ーーー
はぁっはぁっ、といきなり走ったせいで息が上がる。
(確か・・・この辺りだったはず・・・)
居たんだ、確かに・・・
あの子が・・・
しかし、それらしき少女はこつ然と姿を消した。
幻覚・・・?まさか・・・
確かに、ここに居たはずなんだ・・・っ
「なんで・・・会えないんだ・・・」
悔しくて唇を噛み、絞り出すように声が漏れる。
会いたい・・・会いたい・・・っ
「へっくしゅんっ!」
後ろで、誰かの気配がした。
「え?」
振り向いた先、どくんと心臓が跳ねた。
美しい黒髪に
整った顔立ち、
長椅子に座って、スマホを片手に缶コーヒーを飲んでいた・・・
「リオ!!!」
彼女だ・・・ーーー