第1章 ルカBDSS【知り過ぎた日】
ルカはかなり警戒した顔を見せたが、アリスの一生懸命な顔を見るや、ふっと息をついて両手を差し出した。
(ルカの気持ちが…知りたい)
アリスは思い切ってルカの手を握った。
「えっ…」
ルカの動揺した声が一瞬したかと思うと
「……きゃっ!!」
まばゆい光が辺りを包みこみ、繋いだ手から電気のような衝撃が走る。
「わっ!!」
二人の間に見えない爆発が起きたかのようになって同時に尻餅をついた。
………光が消え、色を失った石がころころ床を転がる。
(今の何……?)
ゆっくり目を開けて起き上がる。
そして、目の前の光景を疑った。
「………え」
そこには
アリス自身が尻餅をついて倒れていたのだ。
目の前のアリスも顔を上げてこちらを見ると、目を見開き呟いた。
「………え……俺?」
「………っ?!」
思わず自分の手を見る。
大きく骨ばった手。
紺色のエプロンにブルーグレーのシャツ。
先程までルカが身にまとっていたものだ。
頭を触ると、長い髪がない。
いつもの長い金髪は、目の前にある。
「…………アリス?」
目の前のアリスが訪ねてきた。
考えたくなかった。
まさか。そんなはず。
でも恐る恐る尋ねる。
「……もしかして……ルカなの?」
驚くほど低い声が出た。
青ざめたアリスの姿をした人はこくんと頷いた。
(嘘でしょ?!)
アリスはキッチンの窓をのぞく。
朝日が反射する窓に映った自分の姿は
アンバーカラーの瞳に泣きぼくろ……ルカの姿そのものだった。
中身が入れ替わってしまった。
その事実を認識するまでに少し時間がかかったが、とりあえず二人は一緒に朝食を作ることにした。
「つまり…昨日買った魔法グッズを使ったらこんなことになっちゃったんだね?」
アリス(中はルカ)に、ルカ(中はアリス)が頷く。
「ほんとにごめんね……こんなはずじゃなかったの」
「ちなみに……どんな効能とか、いつまで続くとか聞かなかった?」
ルカ姿のまま首を横に振る。
(まさか心の奥を知りたかったとは言えない…)
「あとで昨日買ったお店に行ってみるね」
「うん…とりあえずみんなには秘密にしておこう」
余計な心配はかけたくない。
二人は目を合わせ、深く頷いた。