第3章 君と俺 貴方と私
一週間前のあの日、俺は一人の女の子と出会った。
何処にでもいるような普通の女の子。
そんな女の子に連絡先を教えて欲しいなんて、人生であるかないかの衝動が自分を突き動かした結果、唖然としながら彼女は連絡先を交換してくれた。
名前すら知らないような相手に連絡先を教えるなんて有り得ない事だけど、何となく自分の勘が彼女は大丈夫だと告げていた。
まあ根拠なんてないんだけど。
彼女の名前は藤原優美さん。
今年の春先に20才になった大学二年生。
趣味は料理らしく、作った物の写真をたまにメールで送って見せてもらっているけど、かなり美味そうだから結構なお手前だと思われる。
そんな彼女に自分の名前を名乗ったと言うのに、彼女は特に何の反応も返さなかった。
と言うか、絶対に気が付いていない。
言わなければと思うのに、このままでいいかと思う自分もいて、結局言えないで現在にいたる。
別に立場を気にしなければならないような関係ではない。
自分達は男女の友人、まだそんな関係である。
それ以上でもそれ以下でもない。
「あ、メール着てる」
収録の為にスタジオ入りした控え室、他のメンバーはまだ来ていないようで荷物を置いて椅子に座るとメールに目を通す。
【今日も一日お互いに頑張りましょう!!お兄さんは仕事無理せず気をつけて頑張って下さい!!笑いすぎには注意ですよ】
そんなたわいのない会話に自然と笑っている自分がいる。
正直まめに連絡をする方ではないと思う。
だけどそれが分かっているのか、彼女から来るメールの数はそんなに多くない。
こちらが社会人だと言っているせいなのか、大まかに分けると朝と昼と夜って感じで届く。
【お仕事の邪魔になるようならメールの返事しなくてはスルーで大丈夫です。迷惑になるようなら言って下さい】
そんなこちらを気遣うメールが最初に届いた時、何となく迷惑じゃないと返信してしまった。
それなのに彼女からくるメールは何時も控えめだ。
内容は長くなく簡潔、だけど優しい内容だったり時に笑えるメールが届く、それが密かに楽しみになってたりする。