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【跡部】All′s fair in Love&War

第1章 親愛なる帝王様





「おい、守河」



彼は通りがかりに、女子マネージャーの一人に声をかける。「彼女」の親友である守河 茉奈莉は大きな目を細くし、そして少し釣り上げ…機嫌の悪さを少しも隠そうとせず、彼の顔を見た。



「松元を知らねぇか」
「見たらわかると思うけど、ここには私ひとりで千花ちゃんはいないわ。ジロちゃんのためのスペシャルドリンクを作ってて忙しいんだけど、何か用?」



思い切り溜息を吐きながら、当たり前だと言わんばかりに返された答えに、彼はちらり、と守河の周りに視線を移す。守河の足元には、籠に入った大量のボトル。抜かりなく他の部員の分は用意した上で、ジローの分を作っているのか――彼はこれまでの付き合いから、これ以上守河を刺激しない方がいいと判断した。運ぶ時は樺地を呼べよ、と声をかけると、何故か自分にはあたりの厳しい守河に、冷たく当然でしょ、と返される。

そして、彼はまた彼女を探し歩き出した。



「ぎゃーーーーーーーー!!!!!」


向日のオレンジジュースが零れた先には、あいつが顧問の榊監督に提出すると言っていた書類が散らばっていた。
そもそもなんで出しっぱなしにするのよ!と言いたい所だが、とりあえず手近にあったタオルで水気を取ろうと試みる。


「な、なんとかなってる…のかな、多分」


ちょっと、いやかなり変色してしまった。
完璧主義のあいつと、絶対主義の監督はこれを許してくれるだろうか…そう思いながら右手に持ったタオルをもう一度あてがってみる、と、そのタオルには見覚えのある一輪の薔薇。

タオルには勿体ないほど質の良い生地。
(オレンジに染まった部分以外は)驚きの白さ。
そして、悪趣味な薔薇の刺繍。

こんなタオル使ってるやつ、あいつしか心当たりが無い。そう気づき青ざめた瞬間、背後の扉が開いて、今一番見たくない、偉そうなあいつの顔が見えた。


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