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【跡部】All′s fair in Love&War

第32章 おわりのそのまえに(中編)





入学式から、何日経っただろうか。俺はいまだに、守河に声もかけられずにいた。それどころか、クラスメイトと馴れ合おうとしない守河は孤高の美人だ、なんて男子の間で言いそやされている。焦るけれど、春の陽気がふわふわと眠気を誘う、その間に気付けば放課後、という毎日だ。

守河は入学式の時に連れ立って歩いていた女子と、放課後いつもどこかへ行ってしまう。何かの部活に行っているんだろうなー、テニス部にふらっと来てくれないかなー、なんて思うがそんな事が起きるはずもなく。


今日も果たして、俺は眠気に勝てず。昼食から1時間ほど経って、一番気持ちの良い時間を迎えていた。今日も、見るのは彼女の夢だ。一度も話したことのない彼女が、俺を起こそうと声をかけてくれる夢。でも、優しい声音は更に眠気を誘う。困った君は、更に俺の名前を呼ぶんだ――


「おーい、ジローちゃん?」


やけにクリアな音声に、ばっ、とはね起きる。目の前には、ずっと焦がれていた顔が、夢で見た以上に近い距離で、俺をのぞきこんでいた。



「わっ…守河!?起こしてくれたの、サンキュ!!マジ助かったしー!!」


真っ直ぐ見返せなくて、ばっと立ち上がり。周りを見回すと誰もいない――移動か!廊下に出ようとしたところで、自分が手ぶらな事に気付く。更に、次が何の授業かもわからない。


「あの、守河…次の授業って、なんだっけ?」


恥を偲んでそう聞くと、守河は少し驚いた風に目を見開き、そして次の瞬間、くすくすと口元を押さえて笑った。可愛くて可愛くて、思わず見とれている俺に、次は音楽だと教えてくれて。俺が教科書を取り出すのを待ち、一緒に歩き出してくれる。


「やっべぇ、寄りによって音楽!?カントクに怒られる所だった、マジありがとー守河!」
「大丈夫、私も前の席の子に言われるまで移動教室だって忘れてたの。それより、私の名前、知ってくれてたのね」
「え!?お、おー、たまたま覚えてた」


たまたま、なんて嘘。本当は入学初日から知ってる、なんて勿論言い出せず、誤魔化す。


「音楽教師のサカキっているだろ、あいつがテニス部の顧問でさー。サボったりしたら部活に出さないぞー、なんてこっえーの!」

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