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【跡部】All′s fair in Love&War

第29章 はじまりのつづき(中編)




「…黙って聞いてたら、随分よねっ…突然相手のことをお前呼ばわりする奴は、礼儀を知ってるわけ!?」


その言葉に、松元の方に向き直すと。涙を大きな目に湛え、しかし決して零すまいと唇を噛み締め、こちらを睨みあげる松元と目が合う。真っ直ぐとこちらを見る目は、逸らされる事がない。

女なんて、都合が悪くなれば泣いたり喚いたりする、ただ面倒な存在だと思っていた。今も面倒な状況である事は確かだ、が、しかし、こいつには真っ直ぐに対峙しなければならないのだ、と思わせられる。そして松元がゆっくりと、口を開く――


「助けてくれたのは有難う!あと、あたしの代わりに危ない目に合わせてごめんなさい!お礼とお詫びが遅くなったのも、大変失礼しましたっ!!」


一息で松元が発した言葉は思いもよらないもので、思わず呆気に取られ彼女を見つめる。素直で、飾らない、裏表の無い言葉。普通の女なら、ここで自己弁護をしたりして、余程格好悪い事になっていただろう。いや、最早、他の女と比べることなんて意味が無いのかも知れない――興奮で赤らんだ顔の彼女はゆるり、と、一瞬視線をさ迷わせ、しかしまた真っ直ぐこちらを見る。ただし、先ほどまでとは一変した、自信なさげな瞳で。

まるで自分が言った言葉に戸惑っているような表情に、思わず笑みが零れる。そして俺は思い出す、今まで感じた幾つかの視線を。口より余程雄弁に何かを伝えようとする、その視線の意味を知りたいと、ずっと思っていたのだと――



「おい、桜木。入部届を書いて帰りな」
「…は!?あたし、入部するなんて一言もっ…」
「アーン?俺様への恩に報いたいだろう?」


揶揄するようにそう言ってやると松元はぐっと押し黙り、気まずそうにこちらをちらり、と見上げると、諦めたようにため息をついた。そこまで見届け、俺は練習に戻るため踵を返す。練習中も何度か視線を感じ、何処か誇らしくなる。女の事で一喜一憂するなんて、ジローじゃあるまいし、と思っていたのに。

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