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【跡部】All′s fair in Love&War

第23章 溜息は雪と溶けて




「カバンを、一旦置きゃあいいじゃねーの…」
「預かり物をそんな扱い、出来ないでしょっ…」

いつもよりゆっくりと乗り込んでくる跡部を待ち、扉を締める。エレベーターはゆっくりと下り、一階へ。そしてまたゆっくりと並んで歩いて、昇降口で靴を履き替え、外へ出ると、何とも待ち合わせたようなタイミングで見慣れた黒塗りの車が滑り込んできた。


「坊っちゃま…松元様!遅くなりました、さぁ、荷物を」
「ミカエルさん、私はいいですから…」
「何をおっしゃいます、さぁ。お乗り下さい」


跡部を見てあげて、と言う暇もなくカバンを取られ、車の扉を開け、乗り込むよう促される。跡部はその間に反対側の扉から既に乗り込んでいて、仕方なくそれに応じ、車に乗った。


「松元様、ご自宅までお送りします…が、申し訳ありません、坊っちゃまを先にお送りして、その後に」
「勿論です、と言うより自力で帰れますし、最寄りの駅でも…」
「ミカエル、松元が先だ」


車に乗り込み、すぐに目を閉じ。シートにいつもより深く身を預けていたはずの跡部が、強い口調でミカエルさんに指示する。


「何言ってんの、跡部っ…!」
「ミカエル、俺様ならいつもの通りだ。松元の家が先だ」


有無を言わさない強い口調に、ミカエルさんはいつも通り落ち着き払った声で、かしこまりました、と答えた。その返事に満足したのか、跡部はまた目を閉じる。すぐに寝息のような呼吸に変わって、少し安心する。


「松元様、坊っちゃまは寝付かれましたか」
「え?あ、はい…恐らく」
「坊っちゃまは、毎年のようにこの時期になると熱を出されるのですよ。もう幼子の頃からずっと」


バックミラーに映るミカエルさんの目は優しく、跡部を大事に思っていることが伝わってくる。


「毎年…?でも、跡部くんがこんなに辛そうなのを見るのは初めてです」
「ご自身の不調を周りに悟られまいとされますから…殊更に、皆様には隠してらっしゃいます。いつも自室に戻られてから、私が気づき問い詰めると、白状されるのですよ」


ふふ、と笑いながら、いつもより小さな声で内緒話のように教えてくれるミカエルさん。そんな事、一度だって気づいたことは無かった――確か跡部は皆勤賞だった、と思い当たり、その我慢強さに感服する、と同時に、不安になった。

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