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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ




ガタガタと、馬車が音を立てて見知らぬ景色の中を進んでいく。

窓から見える景色の中で、木々が気が付けばもう薄ら赤く染まり始めていて、季節の移ろいを伝えてくれる。びゅう、と風が吹く。ざわざわとした葉の擦れる音と共に、知らない土地の匂いを教えてくれた。
馬車の中は、不思議と揺れも少なく、乗り心地は相変わらずとても良いものであった。

ルシスさんの誘いの後、びっくりするくらいメイドさんらによって素早く用意された数日分の荷物をルシスさんの馬車へ乗せられ、あれよあれよと屋敷を出発してしまったのだ。あの量の荷物がまるで異空間に吸い込まれるかのように入っていく様を感動して見ている余裕はあったのに、こんなに早く決行して、本当にハイデスさんは何とも言わないのだろうかとか、色々と思う事はあったというのに勢いに負けて何も確認することが出来ずに今こうして私は馬車に揺られている。

この、流されやすい性格を少しはどうにかした方がいいのかもしれないと、そんな少しずれた事を考えながら外をぼんやりと眺めていたら不意に声を掛けられた。

「……もう少しで着きますよ。疲れてはいませんか?」

「あ、いえ、大丈夫です。屋敷の外に出るのも、あの舞踏会の日ぶりなので…。」

「おや、あれから一度も外へ出ていないというのですか?」

「あ、えっと……前、街であったこともありますし、何というか……少し、臆病になっちゃってまして。」

少しだけ驚いた顔をしたルシスさんの言葉に、何だか勝手に言い訳を並べてしまう。
うーん、でも不思議と外に出たいという気持ちもあんまり無かったんだよな。

ハイデスさんがいる時は、色んな話したり、不思議と時間が経つのは早かったし、そうでなくてもジェイドさんが常に居てくれたから。それこそ何でも教えてくれたし、忙しくとも私なんかの話し相手にもなってくれて、あの屋敷で退屈だと感じたことは無かった。

「ふむ、ならば、どこか興味のある場所はありますか?お好きなところへお連れいたしますよ。」

「え?好きなところ…?」

突然の提案に思わず眼を丸くする。
そして思う。そういえば、私、あの屋敷以外での過ごし方を知らない。遊び方なんて勿論知る筈もない。
それに、やはり色々あったからだろうか、今は特に何か遊びたいと言う気持ちもあまりなく、そう言ったことを考えもしなかったのだ。
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