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【 ハイキュー!!】~空の色~

第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )


なにげなく時計をみれば、ここへ来てから随分と時間が経っていた。

『そろそろ帰ろうかな・・・』

懐かしさの溢れる場所を何度か振り返りながら、来た時と同じように重厚な扉を押し開けてロビーへと降りていく。

負けたチームが帰ってしまったのか、さっきとは違ってガラリとした雰囲気に驚きながら階段をゆっくりと降りて行けば、階段脇に自販機が見えて、喉を潤そうかと鞄から財布を取りだしたところで小さな衝突があり、小銭を落としてしまう。

「すみません!あの私、ちゃんと前見てなくて・・・」

『大丈夫。あなたは平気?』

落とした小銭を拾いながら振り返れば・・・驚くほど小柄な女の子が涙を浮かべて申し訳なさそうに私を見ていた。

「私は大丈夫です。ホントにごめんなさい・・・」

『いいのよ、私もなにもないから。それよりちょっとごめんね?』

鞄からハンカチを取り出して、女の子の涙をそっと拭う。

泣くほどの何かがあって、それで前が見えてなかったのね。

「ありがとうございます・・・えっと、ちゃんとお洗濯してお返しするので、あの、名前とか・・・」

『そんなの全然・・・』

あれ・・・なんだろう、この懐かしい感じ。

この子の目元、あの人に・・・桜太に、よく似てる気がする・・・

「ホントにすみませんでした・・・じゃあ、私はこれで・・・」

周りをチラチラと見回しながら、慌てて駆け出していく背中に声を掛けそびれては、少しだけ、後悔する。

まさか、ね・・・?

だってあの時、確か小学生だったから。

だからきっと、いまの女の子は人違いだと思う。

あの頃の年齢から加算していけば、彼の妹さんはもう、中学生だと思うし。

あんなに小さな、女の子じゃないもの・・・

パタパタと駆け出して行った小さな人影は、あっという間に見えなくなり、自分の思い出の中で生きる人の面影は、そこで途絶えてしまった。

きっとバレーの試合を見たから、錯覚でも起こしてるんだろうと小さく笑う。

気を取り直して、自販機に小銭を流し込み・・・昔から好きだったミルクティーのペットボトルのボタンを押せば、ガラガラと大きな音を立てながらそれは落ちてくる。

少しだけ飲んで、後は帰ってからに・・・と、キャップに手を添えれば。

「おい!さっきのはいったいなんなんだよ!」

「だから、ゴメンって!」








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