第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
家までの道を桜太に付き添われながら···ゆっくり歩く。
その間、桜太は何も聞かず、何も言わず···どうして何も言ってくれないんだろうかと思いながら、時折その顔を見ては自分からも何も言えずにまた歩いた。
お互いに何も話さないまま、ついには私の家の近くまで辿り着いてしまう。
『桜太、もうこの辺で···』
これ以上、家近くまで送って貰ったりしたら···それこそ家の人間に桜太が何を言われるか分からない。
そう思ったからこそ言った言葉なのに。
桜「心配しなくていいよ、梓。ちゃんと、話はするから」
『···話って?』
桜「梓の···お父さんと、かな?」
桜太の言葉に、私の中の時が止まる。
『な···んで?』
桜「このままじゃダメだと思うからだよ。梓のお父さんが梓を大事にしてるのは···分かるから。ちょっと、捻れてしまった感情付きだけど···でも、分かるから。俺にも、分かるから。だからこそ、ちゃんと向き合って納得行くまで話をしてっていうのが必要だろ?」
『でも···』
桜「大丈夫、俺はこの梓の手を離さない自信はある。梓が離したいって言うなら、別だけど?」
キュッと握り直した手を軽く掲げ、桜太が笑う。
『離したいとか、そんな訳ないよ』
桜「じゃあ、決まりだね?ただ···ひとつだけ言わせて?これから先、どんな事を言われても俺の事は気にせず普通でいて」
『どんな事をって、桜太にだけ嫌な思いなんてさせられない』
そう言っても桜太は笑って、大丈夫だからを繰り返した。
桜「さ、行こう」
渋る私の手を引いて、桜太が歩き出す。
家に着くまでの距離が、こんなにも長く感じたのは初めてのことだった。
玄関のドアを、ゆっくり恐る恐る開ける。
···とは言っても、それなりの音はするもので。
そんな音を聞きつけた両親が慌ただしく玄関まで出て来た。
お母さんは涙ぐみながらも私を見てホッとした顔を見せ、対照的にお父さんは···桜太の姿を見て眉を寄せた。
ここからは、桜太は私と引き離され別室へと通されてしまい···2人がどんな話をしたのかなんて私には分からなかった。
けど、桜太が帰った後、お父さんは自室に篭ったきり···数日間は私と顔を合わせることはなかった。