第3章 落ちた劇場艇〜魔の森〜
久しぶりに夢を見た。
私がまだ地球にいた時の、一般的な朝の記憶。
ダイニングテーブルの定位置にはお父さんが座っていて、テレビに映るニュースを見ながら箸を動かしていた。
お母さんが台所から味噌汁を運んでくる。
そして寝癖がついた頭をボリボリ掻きながら、リビングに入ってくる眠そうなお兄ちゃんを「お兄ちゃん、遅い!!」なんて私が注意するのだ。
懐かしいな。
一週間前まではこれが当たり前だったのに、随分懐かしく感じる。
皆どうしてるかな。
そういえば、お兄ちゃんとは喧嘩したままだ。
…………
もう、会えないのかな。
ふいにざわりと心が浮き足立って、自分の立っている場所がひどく不安定であるように感じた。
無性に、家族に会いたい。
寂しい。
「…………お父さん、お母さん……お兄ちゃん……」
「お姫さま!?」
耳元で声が響いた。
まだ年端もいかない少年の声。
ゆっくりと目を開けると、心配そうな金色の瞳と目が合う。
大きなとんがり帽子をかぶった、魔導師の少年だ。
「…………ここは?」
霞む視界を巡らす。
徐々にピントの合ってきたそこは、薄暗い森の中だった。