第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
ジタンside.
ゴウゴウと断続的に鳴り響く音に混じって、さぁっと風が頭上に吹き抜けた。
見上げると、巨大な樹木の枝葉が揺れている。
「ずいぶんと穏やかなもんだな」
重なり合う葉のわずかな隙間をぬって光が差す。
それが水色の屋根の上でちらちらときらめいていた。
揺れる枝を支えるのはしっかりとした幹。
そこからのびる根が隣近所の根と絡み合ってこの街の地盤となっている。
砂嵐の中に存在する街、クレイラ。
人々は500年もの間外交を閉ざし、独自の文化を発展させた。
道行く男は民族衣装なのか、文官のような淡水色のゆったりとした服に身を包んでいる。
女性は踊り子のようなひらひらとした衣装。
衣装と言いたくなるような、見慣れない服装をこの街の人々は着ている。
俗世から離れた場所。
桃源郷と呼ぶにふさわしいだろう。
「フライヤはブルメシア王に呼ばれたし、ビビとクイナは勝手にやってるし……オレはどうすっかな」
緑に溢れたクレイラの街中をこうして歩いていると、外で起こっていた争いを忘れそうになる。
「さすがにアレクサンドリアのやつらもここには簡単に入ってこれないだろうし」
しばらくの間、ブルメシアの人達も休むことができそうだな。
街の中には傷ついたブルメシアの人々が大勢いた。
クレイラの民が彼らを受け入れたのだ。
そのおかげか、ブルメシア王も健在らしい。
そういえば……大聖堂でのあいつ。
ふと、オレはブルメシア大聖堂でのことを思い出す。
雨が降っていた。
地べたに膝をつくオレ達に、コツコツと靴音を鳴らしながら近づく男。
長い銀髪が揺れる。
あの男は何者だったのか。
やけに変な格好をしていたな。
それに……胸がムカムカする。
なんだ、この気持ち。
「てぇへんだ!」
「なんだ?」
慌てたような声に視線を上げる。
ブルメシアの男が目を見開いて辺りを見回していた。