第1章 はじまり
近所の公園。
池の柵にしなだれかかり、水面に映る自分の顔を見ていた。
「はあ〜」
ため息はこれで何度目だろう。
少なくとも指で数えられないくらいついているのは確かだ。
兄と喧嘩した。
理由は些細なことだ。
楽しみに取っておいたカップデザートを食べられたのだ。
それは、まあそこまで落ち込むことではない。
少々ムカつきはしたけど。
その後、売り言葉に買い言葉で口喧嘩に発展したときの言葉に、私は傷ついている。
「もっと可愛げのある妹がほしかった」
兄は妹というものにいったいどんな夢を見ているんだか。
世間一般の妹なんてこんなものだと思うけど。
それでも、可愛げのない人間だとは自分でも思っていたので、少し傷ついた。
柵を背に夜空を見上げれば、暗闇の中にいくつもの星が瞬いていた。
まあ、私も色々ひどいことを言ってしまったし、そろそろ帰って謝るか、とぐっと柵に体重をかけた時。
「えっ──」
木製の柵が突然倒れ、支えを失った私の身体は池の中へ吸い込まれるように落ちていった。
──ドポンッ。
次の瞬間、頭までひんやりとした水の感触。
足をつこうと思うのに、
底はなかなか現れなくて、
手足をもがく私の身体は、
どんどん深くへ沈んでいく。
やがて息が続かなくなって、ボコッと口の中に残っていた最後の息を吐き出すと、そのまま私は意識を手放した。