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神威の巫女【刀剣乱舞】R18

第8章 桜の樹の下で 加州清光①



「加州殿、ここから見えるあの桜の木……あれが初めて咲いた時のことを覚えていますか?」

「え……」

桜が初めて咲いた日。
加州はその日のことを思い出そうと目を瞑る。

顕現した頃は、本丸内だけでなく周りも殺伐としていて、木々や草花も荒れ放題だったのを覚えている。
ひゅうがと二人で畑を耕し、お互いに疲れたと口々に言いながら野菜の種や苗を植えた。
その時はまだ、桜は咲いていなかった。

加州は立ち上がり、窓側へと歩き出す。
窓枠に手を掛けて窓を開けると、風が加州の頬を掠め、室内に爽やかな空気を運んだ。
加州は深く息を吸うと、部屋から見える桜の木を見つめた。

「覚えてるよ。忘れるわけがない」

今でも、鮮明に覚えている。
あの桜が咲いたのは、加州が初めて出陣した日だった。
油断していた訳ではないが、相手の力量を見誤り、重傷を負ったのだ。
本丸に戻り、すぐにでも手入れ部屋に行くべきだったが、加州は手入れ部屋ではなく、ひゅうがの元へと向かった。

ひゅうがは傷だらけの加州にすぐさま駆け寄り、彼の身体を支えるように抱き締めた。
身体のあちこちが痛かったが、とにかくひゅうがに会いたかった。
これでまた折れることになるにしろ、最期に彼女の顔が見たかったのだ。

「こんなにボロボロじゃあ……愛されっこないよな」

そう言って笑うと、加州は意識を手放した。
あの後、ひゅうがはなんて答えたのだろう。

そして、次に目を開け視界に飛び込んできたのは、鮮やかに咲き誇る桜の花と、ひゅうがの悲しい顔。
頰に落ちた何かの感触が、花びらか彼女の涙だったのかわからないほど、無数の花びらが舞い落ちていた。

そういえば、あの日。

「俺、手入れ部屋に行った……のかな?」

そう呟くと、加州は窓際に置かれた水盆を見やる。
水盆には芍薬と椿が浮かび、風で水面を揺れている。
この芍薬は加州がひゅうがに贈ったもの。
一月以上前に。
水の上とはいえ、手折った花がこんなに長く枯れずにいられるだろうか。
加州が考え込んでいると、こんのすけが小さく呟く。

「……あの日、加州殿は手入れ部屋に行ってはおりません」

「じゃあ、なんで……」

何故、傷が治ったのか。
そう聞こうと加州が振り返ると、ひゅうがの身体がわずかに動くのが目に入った。

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