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イケメン戦国 ー とおまわり ー

第8章 触れる



ひいろの次の反応が出る前に、片手で目隠しの手拭いを取り去る。
目隠しを外されたひいろは、眩しそうにぎゅっと眼をつぶり、少し間をおき、ゆっくりと瞼を開いた。

眼を開いたひいろの前には、吐息が届きそうな距離に俺の顔がある。
ひいろは驚きもせず、強く澄んだ眼で、俺を見る。


「光秀様……ありがとうございました」


そう言って、ひいろは片頬に触れたままの俺の手に、そっと自分の手を重ねる。


「あったかい。やはり光秀様は、あたたかい方なのですね」


俺の手に、頬をすり寄せるようにして、ひいろがにっこりと笑う。

先程の口付けに、気づかなかったのか、それとも気づかぬふりなのか?
これは誘いなのか、素直な言葉なのか?

ひいろの心が読めぬまま、俺は身体の熱を断ち切るように言葉を選ぶ。


「明日、安土を離れる」

「はい」

「待っていてくれるか?」

「はい。お気を付けて」

「あぁ」

「光秀様の絵を描きながら、お待ちしています」

「楽しみにしていよう」


断ち切る為の言葉を選ぶつもりが、繋ぎ止めておくための言葉を紡ぐ。
俺とひいろの『待つ』という言葉には、どのような思いの差があるのだろう。

俺の手の中で、優しく微笑むひいろを見る。瞳の強さが消え、穏やかな色になっている。
俺は、押さえきれない熱をぶつけるように、その額にそっと口付けをする。



「いい子で、待っていろ」




帰って来たら、すべてをさらけ出そう。
お前を欲する、この心を。
その時は、どうか……





俺を、受け入れてくれ。





柄にもなく、胸の奥でそう呟いてみる。
どこか遠くで、雷の鳴る音が聞こえた。


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