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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第2章 愛を知らない少女


「ガキ諸共、全員殺せ!」

 そう、顔に傷のあるの男は命じた。
 十丁の銃口があたしたちに向けられる。
 父は「うわあぁぁっ! 死にたくない‼」と大きな悲鳴を上げながら逃げ出した。
 そんな父に、銃の照準が変更される。
 あたしはそんな父が情けなくて、見ていられなくて、認めたくなくて……。

「もう、要らない」

 誰にも聞こえないようにそう呟くと、あたしは自分の人差し指に牙を立てた。
 人より発達した犬歯は、両親があたしを『化け物』と呼ぶ理由の一つだ。
 人差し指の傷からは珠のように血が溜まり、やがて意思を持ってうねり始めた。
 あたしはそのうねる血液を父に向ける。
 そして、躊躇うことなく父の心臓を貫いた。


 ――ドスッ


「ぐぁっ!」

 ズルッと血の束が引き抜かれ、父の胸からおびただしい量の血が噴き出す。

「あなたっ!」

 すでに自分を愛していない夫に駆け寄る母は滑稽だ。
 あたしは無表情にその女を見下ろした。
 侵入者たちは目の前で何が起こったのかまだ理解できないのか、呆然と親子のやり取りを見ている。

「お前っ、やっぱり『化け物』だったのね‼ 実の父親を殺すなんて……っ」

 憎悪を込めた目で睨んでくる母に、あたしは可笑しくて笑ってしまいそうだった。
 実の父親?
 それはいったい誰のことだろうか。
 そもそも、あたしはお前たちのことを親だと思ったことはない。
 あたしはうねる血液で、さらに自分の手のひらを傷つける。
 血で朱く染まった手のひらを、あたしは水平に持ち上げた。


 ――ザンッ


 あたしの意思を受けて素早く伸びた血液は、迷うことなく母の首を落とす。
 母は呻くことすらできずに絶命した。
 あんなにあたしに罵詈雑言を浴びせていた母も、最期はあっけないものだ。
 両親を殺して、あたしはようやくホッと一息吐いた。
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