• テキストサイズ

【R18】そして、恋を知る。

第1章 1.プロローグ




「今マネが足りてなくてさ、ね、顔出すだけでいいから!頼むよー!」

「第三金曜、新歓コンパ!!定員の空きはあと○名!!あと○名!!タダ酒だよー!」

そんな叫び声にも似た声がそこここに行き交う。

目前に迫る校門では、入りたての新入生を捕まえようと沢山の学生でひしめき合っていた。

「あ!都!時間あったらうちのところの勧誘手伝ってくれない!?今度奢るし!」
見知った顔が目ざとく都を見つけ声をかける。

「ごめーん!これからバイト!」
辺りの騒音についつい大声になる。
ちゃんと申し訳なさそうな顔が作れているだろうか。

「こんな昼間から?本当好きだねぇ…。人生の夏休みって言うのにバイトバイトって、変わった子…。」
友人は肩を竦める素振りを見せるとひらひらと手を振って都を見送った。

都は鞄を抱き締め、自転車を牽きながら人混みを掻い潜るようにして、大学を後にする。

この町は坂が多い。
座ってペダルを漕ぐのが億劫になり、自然と立ち漕ぎにシフトする。
突き当たりに見える小さな公園を右手に曲がると今度は下り坂に差し掛かる。
心地よい風が都の髪を優しく鋤いた。

昼寝の時間なのか、静かな保育園。
世間話に花を咲かせる商店街の主婦たち。
店先で微睡む2匹の三毛猫。
体育の時間なのか、ドッジボールに興じる小学生の歓声。

どこか懐かしい、昼下がりの風景。

それらを後にすれば、都の通う一風変わった店が見えてくる。

しかし、意外なことに、その店は一見してそうとは分からない程、閑静な住宅街に溶け込んでいる。

その外観は店というより、小さな白亜の家と言った方が近いだろう。

寡黙な印象を与える、アンティークのマホガニー製のドアは両開きで、真鍮のノブが取り付けられている。

小窓などはなく、押し開かなければ中を覗くことは叶わない。

そして、その頭上には一見しても気付かないようなさりげなさで、小さな葉書大の看板が吊り下げられ、時折思い出したかのように風に揺られている。


漆黒の背景に白字で書かれているのは、

『club Cledran』



ここは、非日常を売る店。





/ 18ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp