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悪魔が嘲り、天使は堕ちる

第2章 始まりの場所



 女性の手が、ゆっくり下ろされる。
 私から出てきた光が、また私の中に戻ってくる。
 どんどん小さくなる光の向こう側で、女性が「どうしますか?」と無言で首を傾げ、私に答えを求めた。

 『天使になれば・・・堕ちるまで、人間に転生できません。もし、人間として生まれ変わりたい気持ちが、ほんの少しでもあるのでしたら、天使になる事はお勧めしません』

 「堕ちる・・・?」

 『堕落し、自身の魂を汚す事・・・。滅多に無い事ですが、稀に、天使としての本分・・・清く美しく存在する事を忘れ、自分以外の者に対し悪意を持ってしまう天使が居るのです。その場合、捕らえ、状況によっては地獄に落ちてもらい『清算』していただきます。――ええ、天使になれば悪意を持った時点で『罪』になります。そうして全てを『忘れた』後、人間界に転生していただいてます』

 そう説明しながら、女性は私を見つつどこか遠くを見ていた。
 過去に『堕ちた』天使を、想っている気がした。

 『ただ、貴女の場合、堕ちる心配は全く御座いません。とても美しい魂を持っているのですから』

 するりと頬を撫でられる。
 
 「・・・天使になったら、何をするんですか?」

 『天使の役目は3つ。1つは天界の平穏を保つ事。2つ目は『人間界』の終わりが来た時、大量に訪れる魂が迷わない様に『あの世とこの世の境目』まで誘導する事。そして、魂を全て回収した後、新たな世界、第二の人間界を作る事。この3つ』

 「『人間界』の、終わり・・・?」

 『終わり。人類の滅亡・・・。その日が来た瞬間が、天使の『本当の』仕事の始まり』

 風は吹いていない筈なのに、冷たい気配が私の背後を横切る。

 「来るのですか・・・?」

 『ええ、そう予言されました。名を言えない程、尊いお方が』

 悲しい話をしているにも関わらず、女性の微笑は崩れなかった。
 人類が滅ぶ運命、天界人としての役目、誇り。

 そして、微笑みながら私の答えを待つ。

 人類が滅ぶその瞬間、その日まで、もしくは次の生を、人として生きるか。
 
 『天界の平穏』『魂の導き』『新世界の創造』全ての役目を背負い、天使として存在し続けるか・・・。
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