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悪魔が嘲り、天使は堕ちる

第2章 始まりの場所


 私は、元々人間だった。
 私だけじゃない。天使は全員、元々人間だった。

 人間だった時は知らなかったけど、清らかな魂の持ち主は、死後天使になれるらしい。

 どう死んだかは覚えていない。

 死んだ後、上下感覚も分からない闇の中で、日本で言う『閻魔大王』らしき大男に地獄に落ちるか否かを審判され、審査が終わると、閻魔大王の膝で微睡んでいた大黒猫の尻尾が私の体を絡め取り、私を闇の外へ投げ飛ばした。

 『合格』だったらしい。

 闇の外は水中だった。

 投げ飛ばされた勢いで、私の体は水中で何回転か回った。
 苦しくは無かった。
 苦しみも、恐怖も無かった。

 木漏れ日のように、明るい光が上から差し込んでいたから、そのまま上に浮かぼうとした。
 その時『ちょっと待ってー!』と呼びかける声が、水の中でハッキリと聞こえた。

 振り向くと、私より少し大きい亀が、ニコニコと微笑みながらこっちに向かって泳いで来ていた。

 『君はまだそっちじゃないよ』

 『オレに掴まって』『乗って』とニコニコと微笑みながら、亀がヒレで甲羅を指したから、私は甲羅の、頭の近い所に掴まって亀の背中に乗った。

 『ごめんね。君はもう一個審査があるからさ、上に行くのはまだなんだ。送るから、乗ってて』

 ニコっと微笑みながら亀は私を乗せて水中を泳いだ。
 その笑みは一度も絶える事は無く、目的地らしい場所に到着した時には『さあ!』ととびっきりの笑顔を見せた。

 『この光の上が審査場だ!オレも一緒に行くけど、受け答えするのは君だけだから頑張って!』 

 そう言うと、亀は私を背に乗せたまま、スポットライトのように差し込む光に向かって上へ上へと泳いだ。

 ザパン…と水上へ出ると、そこは、海のように広い広い、地平線と青空しか無い水の世界で、私の目の前に白い羽衣を纏った黒髪美人の女性が水上に立っていた。

 『ようこそいらっしゃいました』

 あまりの美しさと雰囲気に固まっていた私に、女性は一度深くお辞儀をしてから、澄んだ声で言った。

 『すでにご存じとは思いますが、あなたは2xxxx年xx月xx日に所持していた『器』を破壊。魂だけとなりました』

 覚えのない私は、凄く小さく、曖昧に頷いた。

 『『器』に入っていた頃の行いを審査した結果、あなたは再び転生する権利を取得しました』
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