第7章 中原中也/黒の世界のノクターン
「中也先輩ー!!」
ぱたぱたぱた…と軽快な音を立てながら近付いてくる女の子。
名を月尾聖子という。
「中也先輩、首領からの作戦命令が出ましたよ!!」
そうやって伝令するのがコイツの役目の1つ。
太宰の下に芥川が配属されたとほぼ同時に
俺の下には聖子が配属された。
「あぁ、あの組織とやんのか」
「わ…私も頑張りますね!!」
「お前は黙って下がっとけっつーの」
「むむぅ…」
コイツは戦闘能力は皆無だ。
体術も出来なければ、銃もロクに扱えねぇ。
おまけにドジで死ぬほどお人好し。
そんな奴がなんでマフィアにいんのか知らねぇが
それでもコイツの治癒能力の異能は
俺達接近戦メインな人間にはすげぇ助かる訳で。
「中也先輩!行きましょう!!」
「あぁ…」
でも本当は…連れて行きたくは…
「あれぇ? キミは確か…帽子置き器の下にいる…」
「あ! 太宰さん!! …ぼうしおきき??」
「誰がだコラ💢」
最悪だ。マジ最悪だ。
何でこんなところにいんだよ…。
「おい聖子、先に行ってろ」
「は、はい!!」
「えー、行っちゃうのー??」
「コイツに関わるとロクな事ねぇ。行け、ほら…」
「わ、わかりました!!」
ぶーぶー文句言ってる奴はシカトだシカト。
アイツが角を曲がって見えなくなった頃に小さく安堵のため息が零れた。
「随分と大事にしてるみたいだね?」
「あぁ? 部下なんだから当然だろ」
「ほんとにそれだけ??」
「………何が言いてぇんだよ?」
「もう抱いちゃった?」
「ぶふぉっ!!!?」
「中也汚い」
な…!!?
ななな何言ってやがんだこの青鯖野郎!!!
「ばっ…!!馬鹿じゃねぇのてめぇ!! ぶ、部下に手を出す訳ねぇだろーが!!」
「…の、割には随分と動揺してるね?」
「し、してねぇ!!」
「大体さ、職場恋愛とかよくある話でしょ?」
「シャバと一緒にしてんじゃねーよ、ここはそんな甘ぇ所じゃねーっつーの」
「…ふーん…??」
こういう時の太宰の目は心底嫌いだ。
何もかも見透かされている感じがしてゾクッとする。
「ま、とりあえず作戦頑張って来なよ。」
それだけ言い残して、振り返りもせずに太宰は闇に消えて行った。