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文スト夢倉庫

第4章 中原中也/葡萄酒よりも甘いカクテルをキミに



カランカラン…


どこか懐かしいような鐘を鳴らし、奥へと進んでいく。
落ち着いた照明に、心地好いジャズの音楽が俺の疲れを癒していく。

重厚感のある黒いカウンターまで辿り着けば
綺麗に並べられたお酒のボトルをバックに
渋い風貌のマスターが迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、中原様」
「おう」


ドカッと腰を下ろせば、マスターが無言で
俺の好きな葡萄酒を出してくれた。
さすが、よく分かってやがる。


葡萄酒に口をつける前に、キョロキョロと辺りを見渡した。
どうやら、今客は俺1人らしい。


「なぁマスター、アイツは…」
「アイツというのは私の事ですか?」
「ぅおわっ!?」


急に背後から探していたアイツの声がして
マジでビビった…
しかも驚いた俺を見てクスクス笑ってやがる…この野郎…


月尾聖子

ここのbarの店員であり
俺の彼女でもある。


「聖子てめぇ…」
「ごめんごめん(笑) ほら、美味しいカクテル作ってあげるから機嫌直して?」
「んな甘ぇもんいらねーよ」
「ほほぅ、誰に向かって言っているのかな??」


そう言って、シェイカーを手にし、慣れた手つきで作っていく。
アクロバティックなパフォーマンスは目を奪われるほど凄くて。
見とれているうちに、綺麗なグラスに注がれたカクテルが目の前にスッと出された。


「これ、私が考えた新作なんだ。飲んでみて?」


そんな風に可愛くお願いされるのに弱い。
絶対アイツは分かってしてやがる…。


少し悔しい気持ちもありながら、カクテルを一口傾ける。


「…甘く…ねぇ。」
「ふふ。でしょ? だって、甘いのが好きじゃない中也の為に考えたんだもの♪」
「そ、そうか…」


俺の為に考えた、ってところが嬉しくて。
ニヤついてしまう顔をアイツに見られないように背けた。


「聖子君、今日はお客様もいない事だ。もう上がっていいぞ」
「いいんですかマスター?」
「あぁ、遠慮はいらんよ」
「ありがとうございます! 中也、少し待ってて?」
「あぁ」


聖子は嬉しそうに走って行った。


「悪いな、気ぃ遣って貰って」
「いいんです。聖子を宜しく頼みます」


小さな店だから店員はマスターと聖子のみ。
まるで親子みてぇで、少し羨ましかった。




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