第3章 ポオ/たまにはこんな純愛小説
リビングに入り、ソファーを薦めようとしたところ
きゅっと背中を掴まれた。
そしてとんっ…と彼女の頭が背中にもたれかかったような感覚を捉え、一気に心臓が跳ねた。
彼女がそうしていると考えると顔から火が出そうである。
「ねぇ、ポオさん…私、自惚れても良いですか…?」
彼女が控えめに呟き、少し離れたのを感じ取ったので、彼女の方へ向き直す。
彼女はとても大事そうに、見覚えのある原稿用紙を抱えていた。
「そ、それ…! どうしてキミが…」
「乱歩さんという方に頂きました」
乱歩君…いつの間に…
でもマズイのである。
だってそれはまだ書きかけで…
「この小説に出てくる主人公が私だって…自惚れても、良いですか…?///」
彼女が顔を赤らめて言う姿は本当に可愛くて、美しくて
あぁ、我輩はまだ夢を見ているのだろうか?
だとしたら随分と都合の良い夢である
「我輩はその中でキミを殺しているんだよ…?」
「最初は驚きましたけど…乱歩さんが推理してくれました」
「推理…?」
「何故、殺してしまったのか、その動機は…その、私への愛によるものだと…///」
あぁ、やっぱり乱歩君は全てお見通しなのである
我輩の言いたい事、代わりに伝えてくれたんだね
「ぽ…ポオさん!?」
彼女が驚いた顔で傍に来てくれて
可愛いハンカチを差し出してくれた
みっともない事に、彼女の前で涙を我慢する事が出来なかったのである。
「ごめんね…ちゃんと書ききれなくて…伝えたい事はたくさんあるハズなのに…」
「ポオさん…いいんです、続きは一緒に書いていけば良いと思います」
そうやって笑ってくれる彼女がまるで女神のように見えた。
「聖子…くん、その、我輩は前からキミの事が…えっと…、愛してる、で、ある…///」
こんなぎこちない言葉にも
彼女はいつもの笑顔で応えてくれたのである。
ー後日ー
「乱歩さん、ポオさんからなんだかとても高級そうなお菓子が届いてますけど…」
「やったね♪ まぁ死ぬほど簡単な仕事だったから達成感は全く無いけど…」
包みを開けると、高級なお菓子と共に二人の幸せそうな写真も入っていて。
「まぁでも、良い仕事だったかな~♪」
乱歩は嬉しそうにそれを眺めるのであった。
終わり。