第3章 ポオ/たまにはこんな純愛小説
我輩の家の近くの小さな喫茶店。
そこで推理小説を執筆するのが最近のマイブームである。
来客も少ないから落ち着けるし、紅茶も美味しいし。
そして何より…
「あ、ポオさんこんにちは! ご一緒しても良いですか?」
そして何より…彼女が度々訪れるからである。
彼女は月尾聖子さん。
大学で民俗学を専攻していて、学校の課題や論文を書くのにこの喫茶店をよく利用している。
民俗学を真剣に学んでいる彼女の話はとても興味深い。
世界各地の風習や、言い伝え、思想など
どれも小説を書くインスピレーションを焚き付けられた。
そのうえ、楽しそうに話してくれる彼女を見てると、不思議と幸福感が得られるのである。
「それってさぁ、恋ってやつだよね、完全に」
「なっ!? な、ななな何を言っているであるか乱歩君!!」
「動揺し過ぎ」
そ、それは乱歩君がそんなことを言うからである…!
先程の喫茶店を出て、我輩はすぐに乱歩君に新作の推理小説(とお菓子)を渡しに探偵社まで来ていた。
そこで乱歩君に「何か良いことでもあった?」と聞かれたものだから、先程の喫茶店での事や、月尾さんの事を話した途端にこれである。
こ…恋だとか…そ、そんな俗にまみれたものではないのである…多分…
「ポオ君はその聖子君って人の事をどう思ってるの?」
「そ、それは…尊敬しているである!」
「…それだけ?」
「えっと…」
急にかぁぁっと顔に熱が籠る。
その様子を見た乱歩は大きくため息をつくと
「告白してみたらー?」
と、とても投げやりに言った。
どう見ても投げやりだった。
「そ…そんな告白だなんて…ど、どうやって…」
「キミの才能を活かせばいいじゃないか。たまには恋愛小説でも書いてみたら?」
「恋愛小説…」
吾輩にも、書けるだろうか…。
探偵社を後にして、小説の構想を練りながら歩く。
彼女を小説で描くと思うと何故だろう。
いつもの帰り道もなんだか違った風に思えた。