第14章 中原中也 / 嫉妬
「…遅ぇな……」
夜の横浜港の倉庫街。
俺の優秀な部下が、ある組織の取引に潜入している。
情報によれば、サシ(1対1)の取引だ。
アイツなら…聖子なら、すぐに終わる案件のハズだ。
そろそろ終わる頃だと思って来たんだが…
「おっや~?? こんな所に趣味の悪い帽子が動いてる。うわ最悪。せっかくの善い気分が台無しだ」
「うるせぇ海に沈めんぞ」
「入水なら美しい女性と行うと何時も云っているだろう? 早く自殺希望の美人を探して来てくれ給えよ」
「うるせぇ簀巻きにすんぞ」
「おやおや、今夜は随分と機嫌が悪いようだね」
「てめぇは随分と機嫌良さそうじゃねぇか。こんなトコで一体何してたんだよアホ探偵社」
「探偵社の仕事とは関係ないよ。…ちょっとした野暮用、でね♪」
「あっそ。興味ねぇよ。さっさと失せろ」
「ふうん? 私が今まで聖子さんと一緒に居た、と言っても??」
奴のやけに上機嫌な声色が、今の発言と相まって俺の神経を逆なでする。
息をするよりも疾く、俺の腕が太宰の喉元を絞めた。
ギリギリと絞めつける音と、擦れた太宰の声が波の音を掻き消す。
「…てめぇ、一体何の心算だ?」
「ふふ…、ただの嫌がらせ、だよ…」
こんな状況でもヘラヘラ嗤っているアイツの顔が心底嫌いで。
本当にこのまま首をへし折ってやろうと思ったが
「此処でこんな事をしていて善いのかな…? ここはとても物騒な所だ…そんな中、彼女は無防備に寝息を立てているよ…?」
「………場所」
「第三倉庫の奥」
「…ちっ」
投げ飛ばされ咳き込む青鯖を横目に睨み付けて
「2度目はねぇぞ」
と一言残してその場を後にした。
「それ…前フリなの?」
と笑う何処かの馬鹿は無視だ無視。
第三倉庫の奥
壁にもたれ掛かって眠る聖子の姿を見て
俺は少し安心した。
怪我も無さそうだ。
近付いて、起こしてやろうと手を伸ばし…
俺は固まった。
細くて白い首筋から胸元にかけての赤いアト
それが何を意味するか
もう子供じゃねぇ俺には明白だった。
その証拠に、いつもキッチリ着こなしているスーツが
少し乱れていた。
聖子はこんな風に着崩さねぇ。
苛立ちが、込み上げた
「…ん…、あ、れ…? 中也さん…?」