第6章 囚われの謌【光秀】甘切ルート
ガタガタと小屋の入り口が乱暴にこじ開けられ、
今だかつて光秀は見たことのない、必死な形相の信長が小屋の中に雪崩れ込んで来た。
「美蘭!」
「信長様っ!」
美蘭からも足をもつれさせながら信長に駆け寄って行くと信長の腕の中に、抱き締められた。
「大事ないか?!」
信長は、美蘭を強く抱き締めたまま、美蘭の髪を、何度も何度も、乱れるのも厭わず撫でながら、言った。
「…っ…ふ…っ。」
その時
美蘭の異変を感じた信長が、
身体を離して美蘭の顔を覗き込むと、
「怖か…っ…ッ…うっ…」
普段弱音など吐かない美蘭が、
大粒の涙を両目からボロボロと流し、嗚咽し始めた。
「何かあったのか?!」
慌てた信長は、美蘭の顔を手のひらで包み込むと
「…っ!」
一緒身を硬くした美蘭。
だが、
首を横に振り、何もなかったと言う。
「信長様にっ、会え…なくなったら…どうしようかと…っ。」
しゃくりあげながらそう続ける美蘭を抱き上げた信長。
「だから貴様はうつけだと言うのだ。この俺がお前を見つけられぬ訳があるまい。貴様が嫌がろうが、地の果てだろうが…必ず連れ戻すに決まっておろう。」
荒々しい言葉とは正反対の優しい口付けを美蘭の額に落とすと、そのまま小屋の出口に向かった。
小屋を出る間際、
一旦止まり、顔だけで振り返った信長。
「光秀。美蘭のこと、世話をかけたな。貴様も帰ったばかりで難儀であった。よく休め。」
「…はっ。」
光秀の返事を確認すると、
信長は自分の馬に美蘭を乗せ、すぐに城へ向け馬を出した。
(これが現実…か。)
小さくなっていく信長の馬を見つめながら
先程味わった美蘭の唇や舌の柔らかさを思い出して、ゾクリと身震いしながら、代わりに自分の唇を噛んだ光秀。
自分と一緒の時は、攫われていたというのに泣きも喚きもしなかった美蘭が、信長に抱き締められた途端嗚咽した姿に、
美蘭の中の信長の存在の大きさを見せつけられた気がした。
(なかなかに、しんどいものだな。)
張り裂けそうな想いをひた隠し、
光秀は助けにきてくれた仲間たちと合流した。