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コートの中のわすれもの

第1章 コートの中のわすれもの


今日は月が綺麗だ。雲が少ないからよく見えるし街灯がなくても十分回りが見える。
それにしてもついていない。家の鍵を職場に忘れてくるなんて。しかも家についてからそれに気づいたのだから救いようもなかった。せめて駅の近くだったらホテルで一泊なんてこともできたのに…
なんて、たらればを脳内で垂れ流していれば駅は目の前。ああ、ようやくここまできた。職場まではここから3駅先だ。最悪終電を逃しても頑張れば歩いて帰れる距離にある。慣れた手つきで定期をかざし、少々急ぎ足で電車に乗る。ひとつふたつ、駅を通りすぎ、ここが3駅目、降りる駅だ。

デスクの上に家の鍵はあった。よかった。
残業をしていた先輩が、ニュースで通り魔が出たって言ってたから気を付けろよ、と心配してくれた。私はへらりと笑って大丈夫ですよ、ありがとうございますと答えた。

終電まで時間がまだあったので近くのコンビニで甘いものとミネラルウォーターを買ってから駅まで歩く。コツコツ、コツコツ。自分のヒールの音が深夜の人気のない道に響く。なんだかおかしくてくるくる回ってみる。コツコッコツッ、コツコツッ。まるでプリマにでもなったような気分でくるくるくるくる。昔習っていたバレエを思い出して、久しぶりに先生のとこに顔を出しに行こうと思った。
コツコツ、コツコツ。くるくる、くるくる。
ふ、と回るのをやめたとき、目があった。
目があった?
ゾッとした。
あれは、まさか、先輩の言っていた、いやそんな、でも、本当に…?
とにかくがむしゃらに逃げた。すると追ってくるではないか。
やっぱり、あれは通り魔だ!
だが、私はヒールであっちはスニーカー、私はスカートであっちはスウェットで、勝ち目があるはずもなく、すぐ後ろまであれが迫っていた。
とうとう肩を掴まれた。恐怖で一瞬固まった。
このままでは死ぬ!
手元にあったコンビニの袋にはまだあけていないペットボトルがある。咄嗟にそれであいつを殴った。よろめいたところで再びがむしゃらに逃げた。今度は会社に戻るようにして逃げた。オフィスにはまだ先輩がいた。何かあったのだと先輩は察してくれてその日は会社で先輩と寝泊まりした。

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