第1章 ー雪ー
暫くの間辺りに興味を巡らせていると、漸く扉が開いた。
しかしそこから出て来たのは、鳶コートの男ではなく、絣の着物に白い前掛け姿の女。
女は少年を一瞥すると、フンと鼻を鳴らした。
「お前、名前は?」
腰に両手を当て、威圧感たっぷりに尋ねられ、少年は思わず姿勢を正した。
「じゅ、潤…松本潤、です」
得もしれぬ緊張感に、思わず潤の声が震えた。
「潤ね。で、歳は?」
「十二になりました」
それでもしっかりとした口調で答えると、潤はその小さな身体を折り、地面に着く程深く頭を下げた。
「余計な挨拶は無用だ。私は女中頭の照。さあ、私に着いて来るんだ」
キツイ口調で言い放ち、踵を返し早足で歩を進め始めた照の後ろを、草履履きの小さな足で追いかける。
途中何度も“おじさんは…”と言いかけたが、その度に照の冷たい目に見下ろされ、潤はその先の言葉を飲み込んだ。
照の後に着いて西洋風の建物をグルリと回り、手入れの行き届いた庭を通り抜けると、そこに西洋風の建物とは比べ物にならない、粗末な造りの建物が見えてきた。