第1章 ドライブデート
窓の外を、次々に流れる景色。私の大好きなアイドルの曲。快晴としかいいようのない、澄みきった空が窓ガラスの向こうに続く。手触りのいいシートに身を預ければ、その心地よさに眠くなってあくびがもれた。
「相変わらず、でっかいあくびだな」
ハンドルを握る雄一が、横目でちらりと見て笑った。その横顔からは、彼の優しさが窺える。
「うるさいなー。可愛いから、いいのー。」
は、いつもみたいな冗談を交えながら、ドリンクホルダーのコーヒーに手を伸ばした。それと同時に、運転手の雄一に蓋を開けたコーラを手渡す。ドライブデートの日は、いつも決まってはコーヒー、雄一はコーラ。「こぼさないでね」「はいはい」というのも、慣れたいつものやり取り。
「寝ててもいいのに。まだあと50分はかかるよ」
雄一がそのコーラを受けとりながら、そう続けた。
「なんとなく、寝たくないの」
「なんで?」
彼の喉が鳴って、コーラが注ぎ込まれる。炭酸の苦手なにとって、コーラという飲み物は不思議でしょうがない。そう聞かれながらも、の手は舞い戻ってきたコーラの蓋を当たり前のように閉めた。
「うーん。久しぶりだから?」
ここのところ、お互いの仕事が立て続けに忙しく、事実、満足に時間の共有もできなかった。久しぶりの遠出というより、二人きりの穏やかな時間に、少なからずも心はときめいた。ただ、それを素直に喜んでいる自分が恥ずかしくて、疑問符を付けて、言い返してみる。
「確かに、久しぶりかもなー。デートも、今日の目的地も」
カーナビの無機質な音声に従って、車が右折レーンに入る。ちょうど信号が赤になって、車が停止した。それと同時に、先程まで前を向いていた雄一がこっちを見た。目が合って、くすっと笑う。
今日の目的地は、初めてのドライブデートで行った大きな公園。公園と行っても、巨大遊具にボート、広大で美しい芝生に綺麗な花壇、それに貸し自転車まであるような、地元の定番デートスポットである。この二人も例に漏れず、初デートに選んだのであった。
「あのとき、雄一、面白かったよね。」
思わず当時のことを思い出す。
信号が青に変わり車が発進した。また、景色が流れ出した。