第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【thirty-seventh.】
宴の日から幾日が過ぎ、私の元へ半兵衛様から文が届いた。
内容は半兵衛様が安芸に赴く為、名前姫を預かって欲しい、との事。
あの晩の事もある故に、私の心境は複雑に絡み合う。
そんな心境の中、半兵衛様の命とならば致し方無い。私は前回の失態をおかさぬ様に、兵を集め大阪城へと向かった。
大阪城へ着くと、既に半兵衛様と名前姫は籠の前に立ち、城を出る準備をしていた。
私は半兵衛様に名前姫を命に変えてもお守りすると誓い立てる。
そして、半兵衛様は彼女に分からないように最後の言葉を強く私に仰った。
「じゃあ、三成君頼んだよ」
彼女に触れたら君ならどうなるか、分かるよね…。
この時の私は何を考えていたのだろう。半兵衛様の凍てついた瞳が私を貫いた。
そして彼女の声で我に返るも、私の心境が表情に出ていたのか、目が合う彼女は少しだけ困惑した表情を見せた。
「一応君は姫だから、ね…」
そう半兵衛様が合いの手を入れて下さり、その場は何とか逃れられた。
だが、その言葉もまた、私に対して引っかかりを見せる。
半兵衛様はその言葉だけでは飽き足らず、行動に移したのだ。
「あぁ、忘れてたよ」
そう半兵衛様は仰り、籠に乗り込もうとする名前姫の腕を強引に掴み自身に引き寄せた。
「!」
彼女の顎を掴み上と向ける。
そして、半兵衛様と名前姫の唇は重なり合った。
私を横目で見遣る半兵衛様。
一体何をお考えか…。
幾ら鈍感な私でも分かる。今のは私に対しての当て付けだ。
では、あの宴の席の事は…。
私は考えはっとする。
もしかするとあの晩、宴が終わり次第半兵衛様の部屋へ来いと仰った意味は……。
私は複雑な心境が更に複雑となり、余計に分からなくなってしまった。
あぁ、月よ。
私は独りが良い…。
こうして、半兵衛様に向ける不信感が着々と私の中で膨らみ続け、全てに対し疑心暗鬼になるのはもう少し先の話…。