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【黒執事】壊れた貴女を看取るまで

第9章 牙


水たまりを踏むような音や、なにかにつま先が当たる音が聞こえる。
多少落ち着いた私はセバスチャンのリボンタイを外すと部屋を見渡した。

「この服装からして貧民街の人たちを連れてきたっていう感じね」

「女王の監視下にはおさめにくいですからね。腕の数などからして老若男女問わず5人ほどでしょうか」

私は修道服の裾を掴んで床に降り立つと、ふと黒い太い線が見えた。
血を軽く取っ払ってみると直径2メートルくらいのセバスチャンとの契約印に似た魔方陣が書かれていた。
緻密に描かれた魔方陣の中央には若い女の子の亡骸が横たわっており、左手には花が握られていた。

「本物の魔方陣ですね…素晴らしい。こんなに美しいものを見たのは数百年ぶりでございます」

セバスチャンが感嘆の声をあげる。私にはその感覚を理解できそうにない。

「しかし、悪魔が出入りしたような痕跡はございませんね…悪魔よりも下級生物の吸血鬼が召喚されているような」

「じゃあここが出所ってわけね」

クローゼットも何もない部屋に吸血鬼が隠れられそうな場所はなかった。私たちは一旦、部屋を出るとスピーカーからジルの説教が聞こえなくなっていた。どうやら説教は終わったようだ。
お昼の時間が近づいてきている。一階に降りて食堂に入るとマーガレットが昼食を作っていた。

「お疲れ様です。今日のお昼ご飯はサンドイッチですよ」

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