第23章 黄水仙(家康)
(まったく…めんどくさいことになったな…)
愛が信長の命により家康の御殿に住むようになって一月。
家康の機嫌はすこぶる悪くなる一方だった。
「おはようございます、家康さん」
いつものように笑顔で挨拶をする愛を
また苦虫を噛み潰したような顔で無視をする。
『鬱陶しい…』
それでもめげずに愛は事あるごとに話かけてくる。
(なんなんだよ!)
足早にその場を去り自室に籠る。
『はぁ…』
無視をするたびに少しだけ悲しそうな顔する愛。
そんな顔を毎日毎日見せられる。
『ほんとなんなの……俺が悪いことしてる気分になる』
家康は盛大にため息をついた。
(いちいち腹がたつ。そんな顔するなら話かけなければいいのに…!)
天邪鬼が余計にこじれそうだ。
いや、もうとっくにこじらせてる。
『信長様は全部わかってんだろ…』
信長の顔を思い出し、またため息をつく。
(嫌いなわけじゃ無い。ただ…俺の側にいちゃダメなんだ)
『あーーーもう!』
大きな声で髪をかき乱す。
シャっ!
突然開いた襖に驚いて振り返る。
「よお、家康。暇だろ?』
『なんだ…政宗さんか…。
勝手に入ってこないで下さいよ…』
ニヤニヤした顔で立っている政宗にため息をつく。
「なんだ、いつもより機嫌悪そうだな」
『政宗さんはいつもより楽しそうですね』
「まぁな、あいつの困った顔と、家康の不機嫌な顔を見れたからな」
『また…ちょっかい出したんですか…』
家康の顔が余計に歪む。
「人聞き悪いな。俺は家康に相手にされずに悲しんでるあいつを
励ましてやろうと思っただけだが?」
(いつもそうだ…なんであの子はこうやって政宗さんにからかわれるんだ。
そろそろ学習能力つけてもいいだろ!)
『はぁ…』
なにか込み上げてくる、モヤモヤとした怒りのようなものを感じながら
家康はまた大きくため息をつく。
そう、あの頃はまさかこんな未来が待ってるなんて知らなかったんだ…。
信長様は、どこまでわかっていたんだろう。
まぁ、それを確認する事なんて一生ないんだけど。