第11章 忍びの庭 前編(佐助)
『愛様、おはようございます』
身支度をして、玄関まで出ると、今日も三成は笑顔で挨拶をしてくれる。
「おはよう、三成くん。夕べはちゃんと眠ったの?」
いつからか、朝の散歩に誘われるようになった。
最初は三日に一度。そして一日置き。
日中、外にあまりでない三成と愛を日頃から心配していた秀吉の助言もあり、
今では毎日、日課のように二人はでかけている。
たまに三成は夜通し書物を読みふけり、
寝ずに現れることもあった。
そんな三成を心配して、徹夜の時は出かけないという約束をしている。
『はい。昨日はとてもゆっくり眠れましたよ』
三成はにっこり笑って答えた。
「それなら良かった。じゃぁ、行こっか」
愛も、笑顔で答え門をくぐった。
「あと十日後には宴だね。
昨日、信長様のが仕上がったから、あとは三成くんので最後だよ」
愛が、晴れ着の進捗具合を報告すると、
三成は嬉しそうに眼を輝かせて口を開く。
『最後がわたくしのというのは…なんだか少し嬉しいですね!
でも、無理なさらないで下さいね』
「大丈夫。信長様が期間を延ばしてくれたおかげで、
かなりゆっくりと作業ができてるから。
三成くんのも、十日もかからないで仕上がる予定だよ」
初めの頃は、夢中になりすぎて明け方まで縫い物をしていた愛も、
朝餉の時に、眠そうだとか、目が赤いだとかの
秀吉からの指摘が厳しいのもあり、
なるべく明るい時間にやる事にしていた。
『そうですか。では、明日もこうして朝の城下を歩きましょう』
三成は柔らかい笑顔で言う。
「そう言えば…」
ふと、愛は何と無く疑問に思っていた事を口にする。
「三成くんは、なんで私と朝の散歩をしようと思ったの?」
小首を傾げながら三成を見上げる愛を見て、
三成の胸はドキンと跳ねる。
(愛…様…)
ふと目を逸らした三成を見て、愛は不安そうな表情を浮かべた。
(まさか…本当は見張られてたとか…)
「三成くん…」
愛の不安そうな声にハッとした三成は、
慌てて愛を見る。
(そんな…不安そうな顔を…
いけませんね…。その顔すら愛おしく思います…)