第11章 忍びの庭 前編(佐助)
『君は、バチが当たるような事はしていない。安心して。
どちらかと言うと、きっと俺が巻き込んでしまった。
申し訳ないと思っている。三ヶ月後まで、どうにか乗り切ろう』
「佐助君のせいか…。なら、仕方ないね」
愛は、一生懸命自分を励まそうと頑張って言葉を選ぶ佐助に
少し心が晴れた気がして、ほのかに笑みを浮かべる。
『やっと、笑ってくれた?
でも、泣きたい時はいつでも言って。
この忍者の服は沢山替えがあるから、
涙で濡れようが鼻水がつこうが気にすることはない』
至って真面目に言う佐助に、愛は吹き出してしまう。
「…ぷっ…。ありがとう。泣きたい時は必ず佐助君を呼ぶよ」
佐助の温もりをもう一度欲しくて、笑顔でハグをする。
『え、あ…愛さん?』
突然抱きしめられた佐助は、今まで慰めていたのとは違うドキドキが走る。
そんな事を一切知らない愛は、呑気な声で、
「やっぱり、佐助君は落ち着く…あったかい」
と、言ってのける。
『あぁ…忘れるところだった。
今日は、愛さんの気が少しでも紛れればと思って、
お土産を持ってきたんだ』
愛は漸くその言葉に佐助から離れる。
「お土産?食べ物?」
キョトンとしている愛に、佐助は背負っていた袋を開ける。
『これ。好きでしょ』
そう言いながら出したのは、束ねられた白い紙と、色鉛筆。
「わぁ!凄い!こんな立派な色鉛筆、この時代からあるんだね…」
眼を輝かせている愛に、佐助は当たり前のように言う。
『それ、俺の手作り』
「えっ!佐助君の?!すごっ!」
佐助の言葉に眼を丸くする愛。
『君は、昔から、絵を描いている時が一番楽しそうだから。
君の好きな水色とオレンジは、多めに作っておいた』
「ありがとう…。私、頑張るね」
『それと…申し訳ないが、明日から数日、安土を離れなければならないんだ』
「え?そうなの?佐助君安土に住んでないの?」
『俺が住んでるのは、越後。安土には仕事で来るから仮住まいもある。
明日から越後に戻ることになっている。一週間以内にはまた戻る予定』
「そっか…気をつけてね」
愛は力なく笑顔を見せる。
『それじゃ、あまり出歩かないで』
そう言い残し、再び天井に消えていく。