第1章 ワームホールはすぐ側に(家康)
自室に着いた愛を追いかけてくる足音。
秀吉だ。
(泣いてるの見られちゃった…)
『おい、愛、どうしたんだ?
入っていいか?』
「ごめんね、秀吉さん。
今日は疲れちゃったの。今は1人になりたい。」
『大丈夫か?何かあったら、すぐ女中を呼べよ。
今夜は城に三成も残ってるから。』
「うん。ありがとう。
ごめんね、心配かけちゃって。
おやすみなさい。」
心配でしょうがないが、1人になりたいと言われたのもはじめてだ。
いつもなら、辛い時は甘えてくる。
だが、さっき泣いて帰ってきたのに、今はとても落ち着いた声をしている。
いつもなら、こんな時に襖を開けずに帰ることはなかったが…。
いつもと違う様子に開けられずにいる。
靄の掛かった気持ちで立っていると、
女中に小声で呼ばれた。
「秀吉様…
愛様は、今日は家康様の御殿に
夕餉を召し上がりにお出掛けになりました。
何かあったのでしょうか…」
心配そうに秀吉を見上げる女中に、
『確かめてくる』と言い残して秀吉は去った。
愛は、思いの外冷静にいた。
夜着に着替え、褥に入る。
自分の心が、凍って行くのを感じながら目を閉じた。