第5章 恋の試練場 中編
暫くすると、三成が戻って来た。
中に声をかけると、襖が開かれる。
『ただいま戻りました』
少し息を切らしている三成は、
無言の食事をしている三人を不思議そうに見つめる。
「おかえりなさい、三成くん。政宗がご飯作ってくれてるよ」
愛が顔を上げて微笑んだ。
『お前、走ってきたのか?何かあったか?』
政宗が怪訝そうに訊くと、三成は驚いたように、
『いえ!先程愛様に直ぐ戻ると約束しましたから』
それを聞いた家康は、
「直ぐにって、走ってとかそういう意味じゃないでしょ…ふつう」
と、ボソッと呟く。
「それで、どうなったの」
家康が三成に訊く。
『信長様は、愛様のお言葉に信憑性があると判断され、
一先ず光秀様が裏を探ることになりました。
ですので、愛様が直ぐにお城に出向かれる必要はなくなりましたよ』
そう和かに話す。
『良かったな愛。ゆっくり療養しろ。
食べたいものあったら、なんでも言えよ?』
そういうと政宗が愛の頭にポンポンと掌をのせる。
愛は政宗を見ると、困ったような笑顔で頷いて見せた。
(ちゃんと笑わねぇな…まぁ、仕方ねぇか…)
そんな事を思いながら政宗は三成に向きなおる。
『お前も早く飯食っとけ。戻るんだろう?後で』
「いえ…、秀吉様が、家康様と政宗様にお会いになりたいと、
後ほどこちらにお見えになるそうです。
私もこのままこちらで待機してろとの事でした」
三成の言う通り、暫くすると秀吉がやってきて二人を呼び別室に向かった。
愛のいる部屋では、三成が食事を終えるところだった。
愛は、先程の政宗の言葉に妙に三成を意識してしまい、
何か会話を…と思ってもうまく話せないでいた。
「お茶…飲む?」
愛は言うと、立ち上がろうとする。
『愛様、駄目ですよ!私がやりますから』
そう言うと、急須に目一杯の茶葉を入れている。
「三成くん、それ入れ過ぎだよ!」
愛が慌てて言うが、きょとんとした三成はそのままお湯を淹れてしまう。
ふやけた茶葉が大量に溢れ出し、周りは大惨事になった。
「ぷっ…あははは。ほんと三成くんて不器用なんだね」
愛が思わず吹き出す。