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ゆりかご 【黒執事 R18‐G】

第5章 鳥籠




「そうでしたか……。それでは、“鎮めて”差し上げましょうか?キリエお嬢様……?」


 セバスチャンの言葉に、―――――――――ゾクリ、と。
 悪寒とも、衝動ともつかない何かが、私の中を駆け巡ったのは、ほんの数秒前だ。

 焦る。口が渇く。何か、どんな言葉でもいいから、返さないと。
 でも、そう思えばそう思うほどに、何も返せなくなる。
 ほんの数秒か、数十秒の時間が、私に重く圧し掛かる。言葉が返せないのならば、せめてセバスチャンを見よう。
 私は、恐る恐る顔を上げる。恐ろしいまでに綺麗な顔をしたセバスチャンが、目を細めて笑っていた。その瞳の奥には何があるのか。その深さは、私には到底推し量れるものではないし、ただただ、深い闇があるだけだった。
 私は、やっとのことで、口を動かした。
「“鎮める”……?」
 情けなく裏返った声で、ぼんやりとセバスチャンを眺めながら、問い返す。
「えぇ。お嬢様も、“初めて”というわけではないでしょう?それに、私たちは、“契約”関係にあります。そのことも、改めてご説明申し上げたいのですが……。」
 ……あぁ、そうでしたね。私は、一体何を期待していたんだろうか。妙な期待なんて抱いて、馬鹿もいいところだ。とんだ勘違い女だ。セバスチャンは、単に契約云々を言っていただけだったのだろう。それを、変な方向へ思考を持って行った私は、欲求不満なんだろうな……。なんか、独りで盛り上がって、馬鹿みたいだ。いや、この場合は、変なタイミングで意味深な発言をしたセバスチャンにも非がある気もするけど。まぁ、いいか。

「あ、うん。じゃあ、お願い。」
 軽く私が口にした瞬間、私の身体は宙に浮いた。その変化に、ついていけない。
「……え!?」
「えぇ。それでは、私の私室へ移動しましょう。準備を整えておきました。」
 セバスチャンの顔が近い。そのバックには見慣れた天井が見える。どうやら、私は所謂お姫様抱っこというやつをされているらしい。ぶっちゃけ、そんなことをされた経験なんてない。漫画やドラマではよくあるシチュエーションだが、現実ではなかなか珍しい光景だと思う。それも、自分がされているなんて。
「えー……っと……。」
 セバスチャンは、まるで壊れ物でも扱うかのように、優しい手つきで私をベッドへと下ろしてくれた。


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