第6章 初秋
バタバタ!!!!と勇利がお店に駆け込んで来た。なんだなんだ、と店内にいたお客さんも勇利を目を丸くして見ている。
「あっごめんなさい!ユラ!ヴィクトルが風邪引いちゃった!」
周りの反応に気づいて謝った勇利は少し泣きそうな顔をしていた。
…医者じゃなくてどうして俺のとこにきたの?
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ヴィクトルの体温は38.3℃だった。ロシア人から考えたらただの微熱ぐらいの体温だが、勇利はそれを知らずに数字だけ見て動転してウチまで来たらしい。……頼ってもらえるのはほんと嬉しいけども、置いてかれたヴィクトルも唖然としてたし俺もお店を開店早々閉める羽目になったよ。いや、ほんと気にしてないけど。何が原因で風邪をひいたのかはわからないが、勇利に移ってしまっては大変なことになるので勇利は1人で自主練、俺がヴィクトルの看病をすることになった。だからなんで俺……?
「医者を呼ぶほどでもないからね」
「むしろ看病必要?」
「1人サミシーイ!!」
27才児か!!!
意識が朦朧とするとか、咳がひどいとかはなく、ただ鼻水が酷いのと熱があるだけ。安静にしてればいいだけだと思うのだが、勇利に頼まれた以上はこの場を離れるわけにはいかないので仕方ない。ちなみに勇利はめちゃくちゃ名残惜しそうに練習へ向かった。鼻水ずるずるしてるリビングレジェンドは貴重だからね……。
とりあえずマッカチンに頼んでヴィクトルと添い寝してもらい、ゆ〜とぴあかつきまで来る途中で買って来たゼリーをヴィクトルに渡す。薬は日本のが合うかとかわからないし選手休業中とはいえアスリートに適当に買ったものを渡すなんてできないので、自然療養してもらうことにした。
「なんでゼリー?」
「日本の定番。ウォッカみたいなもんだよ」
「ふーん?」
疑問は抱けど不満はないようで、ヴィクトルはフクースナー!なんて元気に言いながらゼリーを食べていた。
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