• テキストサイズ

月夜に詠えば

第10章 狭間


広い湖の水面に風が吹きつけ俄かにさざ波が起きる。
月は半月、松明の灯は周囲を赤く照らす。

安土から馬で小一時間ほどの距離にその広い湖はあり、
昼間はその広大で美しい景色に旅人は足を止めてその体を休め
地元民には憩いの場となるが
夜は月明かりだけで人も殆ど訪れぬ静寂の湖。

安土に三成を残し留守を任せ、皆その地に訪れ湖の一点を見つめていた。

巫衣装を纏った雅は自身ができる最大限の祈祷を捧げるためその身を湖に沈めていた。

見たことのない祈祷の方法と言いようのない神々しさを放つ不思議な雅のその姿に皆が見入る。

天女がいるならこんな姿なのかもしれない。。。
なんて思う者もいた。

どれくらいの時間が経ったか

一瞬雅の姿が湖に沈んだかと思うと
海の荒波のように湖面が波立ち、同時に木々を大きく揺らし、灯った松明を風が消した。

暗闇が辺りを包み、皆が動揺の声を上げ始めたその時、
湖から水音が響き一点が光輝いた。

その光に目を凝らすと雅がおり、岸へ戻る動きにあわせて水音が響いた。

「皆さん…大丈夫です。」

雅が肩で息をしながら岸に上がってきた。
多少湿り気はあるものの湖に入っていたとは思えぬほど雅の身体は濡れていなかった。


「雅、お前…俺たちは巫の祈祷の方法なんてわからないいんだから何も知らされてないと心配するだろ。」

秀吉や政宗が駆け寄りその目で無事を確かめる。
雅の姿を見つけ皆安堵の色をその表情に浮かべた。

「ごめんなさい。でも、たぶんうまくいっています。
皆さん、申し訳ないのですが信長様のところに集まっていただけますか。

加護を得たので皆さんにお分けしたいのです。」

雅は信長の方へ向き直り笑顔で声をかけた。
その手には光り輝く玉串が携えられていた。


信長はその微笑みに応えるように目を細め優しさを灯した。

「おそらく、これで私がいない間も暫くは大きな災いはおきないはずです。
皆さん、私のせいでご心配や苦労をかけてすみませんでした。
明日から、春日山で頑張ってきます。」

雅の慈愛と優しさの中に力強さも見える不思議な魅力を放ったその笑顔はとても美しかった。
/ 72ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp