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月夜に詠えば

第4章 始まり


城から出立してからも順調に織田軍一行は足を進めていた。

現地まではあと半日はかかるので途中の織田軍支配下の大名が治める領地で一晩を明かす。

今回も信長の馬は雅に遠慮なく進んだため雅は体中が固まり早くも筋肉痛が押し寄せており、馬から降りると思わずよろけた。

「っと、危ない。気をつけろよ、雅。」

秀吉が支えてくれる。
その瞬間、ざあっと突風が吹き、馬達が一斉に鳴いた。


「つむじ風ですね」
馬を落ち着かせながら家康が言う。




雅は風の音の中にあの声を聴いていた。

今夜は満月が上ると確信し、何か、悪い予感のようなものを感じた。


不安げ月が上る方向を見上げた雅に秀吉は声をかける。

「雅、大丈夫か?」


「うん、ありがとう。」
すぐいつもの笑顔で応えた。





兵の皆が到着したのを見届けた雅は
夕餉前、時間が空いた大名の家臣の方に月がよく見える場所を教えてもらい御殿の裏の人気のない場所に一人居た。


確かにここはよく月が見える。
幸い、山から流れる清流が溜まる池があり水面に月を映していた。


懐から玉串を出し池の水面に浮かべる。
大きく深呼吸し、ひと息にこう告げた。


「我は親神様より仕えし倭の国の巫なり。
祓戸大神たちよもしもこの地に様々な禍いや罪穢れがあるのであれば我にそれを示したまへ。」

お神酒代わりの酒を池に捧げ、目を閉じ、息を止める。


巫は本来の神託を受け、神威を得るには清められた衣装と身体に正しい舞と祓言葉が必要だが、

急を要する場合や迷いが生じた時などは簡易版のような式の形も持っている。
但し簡易型の式の場合神託のみで神の守りの力は受けられないのだ。



一瞬の静寂ののち、
その言葉に呼応するかのように先ほどより大きな風が吹き、馬が嘶き
木々の鳥が飛び立ち池の水面は大きく波立つ。
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