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【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第4章 一富士二羽ノ【正月番外編】


 縁起の良い初夢、一富士二鷹三茄子。夕飯時に付けていたテレビで、どこかの寺の実況中継をしていたレポーターがそのようなことを言っていたからだろうか。淡い色の夢の中で、朔弥の眼前に悠々と裾野を広げる雪化粧の雄大な山がそびえる。
 美しいその景色に見入っていると、力強い羽音が鼓膜を震わせる。見上げると、真っ白な一羽の大きな鳥が頭上を旋回していた。
「……あとは茄子?」
 ぽつりと声に出す。その声に反応してか、ゆったりと風に乗っていたその鳥が緩やかに高度を下げる。ばささっと大きな翼を羽ばたかせて一羽の鷹……ではなく白鷲が、白鳥沢学園と背に書かれたジャージ姿の彼の肩に留まったのを見て、朔弥の目が見開かれた――。

 自分が夢を見ている、と気づくことは稀だと言われている。しかし、牛島は夢を見るときそれが現実ではないと気づくことが多かった。今の状況もそうだ、これは夢の中である、と肩に留まった白鷲をじっと見る。
 金に翠を溶かしたような鋭い眼光が自身のものと似ている、と思ったとき、わかとし、と聴き馴染みのある声が聞こえて振り返る。そこには思った通りの人物と、そしてその斜め後ろにすっと首を伸ばした一羽の大きな白い鳥が立っている。
 優美な仕草で一度大きな羽根を震わせて、美しい羽先を啄ばんだ白鷺。その震える空気に、背後の気配を初めて感知した、とばかりに朔弥が目線をこちらから外して白鷺に目を向ける。
 交差した真っ黒な瞳が二対。彼らはどことなく似ている、と牛島は思った。

「……はは、お互い鷹じゃないのかあ」
「そのようだな」
 のんびりとした口調に同意して、はて、と牛島は首を傾げた。
「これは俺の夢だ」
「そうなの? 俺の夢じゃなくて?」
「おまえの夢なのか?」
 互いに疑問符を浮かべつつも、まあいいかと歩み寄る。なにせ、これは夢なのだ、誰の夢であったとしても。踏みしめた地面が鏡のように見えても、なにも気にすることはない。

 欠けることのない逆さ富士を背景に、二羽の白い鳥が向かい合う。この年の初夢は、目が覚めれば二人揃って忘れてしまう、そんな儚くも不可思議な夢で、それがなにを意味するのか誰にもわからないことであった――。

(一富士二羽ノ・了)
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