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【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第4章 一富士二羽ノ【正月番外編】


 白鳥沢学園の男子寮、エントランス横に備えられた掲示板の前で呆然と立ち尽くす朔弥の背を、バンッと誰かが力一杯叩いた。
「いっ!」
「よお、朔弥。どした?」
 痛いよ隼人! と背をさすり抗議した朔弥に、悪りぃ悪りぃと全く悪びれるふうもなくからりと笑ったのは、二年になったこの春から白鳥沢へ編入してきた山形だ。スキンシップが少々荒っぽい彼は、先ほどまで朔弥が見ていた張り紙を覗き込む。
 大切なお知らせ、と大きく見出しに書かれたそれには、下水道管の修繕工事を行うため年末年始の閉寮を告げる内容が綴られている。
「あー、これな。三十日の夕方から二日の朝までだっけか」
「やっぱマジなやつかー……」
 朔弥ががくりと肩を落とす。
「実家は遠いのか?」
「きょーと」
「じゃあ土産は八ツ橋で」
 よろしくなっ、と言う山形に、いや、と朔弥は首を横に振った。
「帰らないよ」
「は? 帰らない、ってどういうことだ?」
「そのまんま。京都には帰らない」
「なぜ帰らん」
「わっ!」
 何の前置きもなく声をかけたのは背後に突然現れた牛島だ。
「びっ、くりした。急に後ろに立つのやめてよね、若利」
「すまん」
「朔弥、セリフはゴルゴみたいなのに明らかに若利の方が強そうで不憫……」
 うるさいよ! と唇を尖らせて、まあ実家はちょっとね、とこめかみを掻く。あまり触れられたくない話題のようだ。山形は少しだけ話の方向を逸らした。
「去年はどうしてたんだ?」
「一年の時は年末年始もずっと寮は開いてた。春高直前だからバレー部員はほとんどみんな残ってたんじゃない?」
「おまえも?」
「いや、練習のない大晦日と元旦だけは実家へ帰った」
 若利はご実家近いもんね、と朔弥が補足する。今年も白鳥沢は宮城県代表として年明け早々の大会に出場が決まっている。おそらくこの修繕工事の日程は練習がない日を選んでのことなのだろう。他県から白鳥沢へやってきた部員も何人かいたが、皆東北エリアの出身者ばかりだ、朔弥一人を除いて。
「たった二日のためだけにわざわざ帰るには遠いよな、京都」
「駅前のホテル、空いてるかな……痛い出費だなあ」
 タタッと液晶をタップしてホテルの空き情報の検索をかけ始めた朔弥を見ていた牛島が、ならば、と一つの提案をした。
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