第3章 ZERO
はぁ・・・?
思わず口から出そうになった言葉を無理矢理飲み込む。
ここは、地上30階にある社長室。
広々とした室内には、豪華な調度品が並び 窓からは闇夜に浮かぶ都心が一望出来た。
こんな場所に不必要な感情は出してはいけない。
「社長、あの子が欲しいの。
どうしても」
ゆったりとソファに身を沈め、赤いワイングラスを傾け私を見つめる瞳。
出そうになった言葉の代わりに私は、ニッコリと微笑んだ。
「私はただの秘書ですよ」
ご冗談を・・と、受け流す私は、そっと社長へ視線を移す。
気難しそうな表情を浮かべる社長は、この人には逆らえない。
苦悩に満ちた表情を私に見せ、小さく頷いた。
はぁ・・・
そっと目を閉じ、気付かれない様にため息を吐く。
この現状はわかっていた。
わかっていたからこそ、何故私なのか?と思わずにはいられない。
「今貰っている給料の倍で雇うわ」
悪くない話でしょ?
と、言う笑みを浮かべる紅い唇。
「どうしても私には貴女が必要だわ」
頼んでいる様には聞こえない声の響き。
2つの視線が私に突き刺さる。
選択肢なんてないじゃない・・
「・・・藤島様、よろしくお願いします」
背筋を伸ばし、頭を下げる。
お手本通り、完璧な一礼に藤島ジュリー恵子は満足げな笑みを浮かべた。