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海を想う、海を愛する。【ONE PIECE】

第10章 香りは導く


 マルコが、腕に巻かれた“それ”を取った時だった。
マルコの鼻腔を懐かしい香りが微かに掠めた。

“?!”

間違うはずもない。それは、あの遠い日、彼女自身が選んだ、“沙羅の香り”だった。
ハッと手にした生地を見れば沙羅が好んで着ていた淡藤色。
「どこに行った?その女はどこに行ったんだよい?!」
マルコのあまりの剣幕に驚くもトシ自身、何か閃いたらしく目を見開いて言った。
「あ!!やっぱりマルコ隊長のお知り合いなんですね、ユエさん」
「ンなことは、今どうでもいい!」
「どこで聞いた?!その名前!!」
「なんでその名前知ってんだ!」
返ってこない答えに苛立つマルコ。
そして、トシの口から出た名前に反応したサッチとジョズ。
雲の上のような隊長達の矢継ぎ早の質問に混乱したトシは右往左往。
見かねたイゾウが間に入り、場を収める。
「よさねぇか!んないっぺんに質問しちゃ、分かるもんも分からねぇだろうが」
「「「・・・」」」
一喝された三人は視線を交わした。




「で、そのユエって女がお前さん達が探してる沙羅だってぇのか?」
それぞれの話をまとめたイゾウは、マルコ達を睨むように見据えた。
今すぐにでも、紹介された酒場に行きたいマルコ。
その酒場は、ただの情報源だというサッチ。
港の出入りを見張るべきだというジョズ。
三人三様の意見も、藁にもすがる思いからに他ならない。
だが、いつもの冷静さを欠いた彼らにイゾウは静かに言い放った。
「会いたくねぇんじゃねぇのか?」
「どういう意味だ?」
マルコの目が訝しげに細められた。
「親の名だって、すぐばれる偽名使ってまで、避けてんだ」
「「「!!」」」
「会いたくねぇ、か、会えねぇ理由があるか」
「・・・」
イゾウの言葉にマルコは暫し考え込んだ。
仮に会いたくないとしても、挨拶もなしに消える性格ではないのはマルコが、一番分かっている。
とすれば、会えない理由があることになる。

跡形もなく消えた家や庭。
割れたモビーディック号の模型と消息の途絶えたロイとユエ。
そして、巨大な波の中に消えた“一人分”の影。
あの巨大な波を“人為的に”操れるのは沙羅しかいない。
何よりあの影は自分の声に反応したはず。
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