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海を想う、海を愛する。【ONE PIECE】

第7章 それからの一年


 歳三の死後、最も塞ぎ込んでしまったのは、お琴ではなく、マルコだった。
あの時はガイムとの戦い、そして歳三の死に気を取られ考えることはなかった。
しかし、冷静になり考えてみれば、自分はなぜあの時悪魔の実を食べなかったのか。
見つけたその場で食べる選択肢はなかったとしても、せめてガイムの声がした瞬間に。
それが無理だったとしても、歳三がガイムと対峙している時に食べるべきだったのではないか。
考えれば考える程、後悔が押し寄せ、自分でもどうしたらいいのかわからなくなっていた。
いっそのこと、この悪魔の実を捨ててしまおうか、あんなに欲しかった悪魔の実が今や疎ましくさえ思えた。
そんなマルコの背に、凛とした声がかけられた。
「まさか、捨てるんじゃないだろうねぇ?」
その声の主に、マルコは体をピクリと震わせた。

歳三を海に還したあの日。
泣き崩れる沙羅や、クルー達にお琴は言った。
『泣くんじゃないよ、あの人はお前さん達が笑ってるのを見るのが、何よりも幸せな人だった、見送る時くらい、笑ってやっておくれ』
そう言ったお琴の顔は艶やかな笑みを湛えていて、美しかった。
その、晩だった。
甲板の隅、誰もいないはずのその場所でお琴が一人声を押し殺してすすり泣くのを、マルコは聞いてしまった。
心のどこかで、お琴は特別に強い女なのだと思っていた。
だが、その泣き声は深い悲しみに満ちておりマルコの胸を押し潰した。
それ以来、マルコはお琴の顔を見ることができなくなっていた。
記憶の中に、お琴が泣いている姿はない。
思い浮かぶのは、艶やかなな笑顔。
歳三とは、無論仲はよかったが、普段は一人で気ままに過ごしていたお琴。
きっと、お互いに干渉しない二人なのだろう。
マルコは、そう思っていた。
だが、その艶やかな笑顔が絶えることのないよう、歳三が常に守っていたのだと。
そしてお琴自身も、それに気づいているからこそ、いつも笑顔を絶やさずに過ごしていたことも。
深い愛に支えられ、支え合い生きていた二人の人生を壊したのは自分なのだと気づいた時、
マルコは、死ぬ程後悔した。

“なぜ、悪魔の実を食べなかったのか”と。

そんなマルコに、かけられたお琴の“その”言葉。
『まさか、捨てるんじゃないだろうねぇ?』
返す言葉が見つからず、微動だにしないマルコの前にお琴はしゃんと立った。
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