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【イケメン戦国】燃ゆる華恋の乱

第6章 幸せな我儘 〜一夜限りの恋人よ〜 / 豊臣秀吉




翌早朝、空が霞み始めた頃。


眠る舞を残し、秀吉は御殿を後にした。
決して誰も部屋に近づかぬように、信頼出来る女中に言伝を頼んで。



(話をつけなければいけない、あの方と)



秀吉が向かった先は ーーーー …………















「来たか、猿」


安土城、天守。
秀吉が訪れると、信長は一人手酌をしながら、秀吉を待ち構えていた。


「御館様……起きておられましたか」
「ああ。 舞が居ないと、眠りが浅い」



『舞』

信長の口から名前を聞くだけで、何とも言えない罪悪感のようなものが生まれる。

信長が手招きするので近くに寄ると、杯をひとつ差し出してきた。

秀吉はそれを両手で受け取る。



「まあ、呑め」
「有り難き幸せ」



(信長様が酌をしてくださるとは……)



嬉しい筈なのに、どうしても居心地の悪さを感じていると……信長のほうが先に口を開いた。



「舞の事か」
「……はい」


酒が杯に入り終わったところで、秀吉は本題に入る。


「昨夜、信長様の命令……確と頂戴致しました」
「……そうか」


言い知れぬ威圧感に圧倒されるが、信長の表情や言葉からは、なんの感情も読み取れない。


「舞の事ですが……」
「……」


秀吉は信長の瞳を見て、きっぱりと言い放った。








「信長様の元へ、お返しします」







次の瞬間。





ーーーー ジャキッッッッ!



「!」

風のような速さで、信長は秀吉の喉元に懐刀を突きつけた。
そのあまりにも凄みを帯びた信長の眼差しに、秀吉は思わず杯を落とした。

その時吹き付けた一陣の突風が、杯を部屋の奥へ転がす。




「猿の分際で、俺を愚弄するか」
「決して、そのような事は……」
「戯け。 何故、他の男の息の掛かった女を、傍に置かねばならない」


刀先が微かに喉を刺し、一筋の血が伝う。
しかし、これは伝えなければならない。
秀吉は痛みを振り払い、信長に告げた。



「私も然り、御館様も、舞を愛しているからです」



信長の瞳が、一瞬だけ揺らいだ気がした。

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