第20章 大胆な君にはご用心 / 豊臣秀吉
(舞、まだ怒ってるかな……)
御殿への帰途への道で、秀吉は少しため息をついた。
今日は、舞と祝言を挙げて、ちょうど一年目と言う大事な日で。
そんな日に限って、珍しく喧嘩をした。
きっかけはすごく些細な事で……
「今日は具合、どうだ?」
「今日は結構平気だよー」
舞は、ここのとこ数日、体調を崩していた。
と言っても、寝込む程ではないのだが……
吐き気、腹痛などが続いていたため、秀吉は心配この上なかった。
「やっぱり寝てたほうがいいんじゃないか?」
「心配しすぎだよ、大丈夫。 それに、今日は記念日だから」
「だからって無理するなよ? そうだ、今遠方の大名に会いに行ってる家康に、文をだな……」
仕事に行く前なのに、あれこれ面倒を見て、甘やかす秀吉。
舞は少し苛立ちを覚え、ちょっと声を荒らげた。
「大丈夫ったら、秀吉さん、甘やかしすぎ」
「何怒ってるんだ?」
「怒ってないよ、でも、秀吉さんは全然変わらない」
「え?」
「私を妹扱いしてた時から……私はもうお嫁さんなのに」
そう言って、少しむくれる。
なんかちょっと機嫌を損ねているみたいなので、機嫌を取ろうと言った一言が、逆に怒らせる決定打になってしまった。
「いいから世話焼かせろ、お前はほっとけない。大丈夫って言って無理するし、目の届く所で大人しくしてろ」
舞は顔を真っ赤にさせ……
泣きそうな顔で、抱き寄せようとした秀吉を突っぱねた。
「ちょっとは信用してよ……っ、私はもう、そんなに子どもじゃない……っ!」
(何がいけなかったのか……)
秀吉は歩きながら、頭を搔く。
舞には絶大な信頼を置いているし、子ども扱いした訳じゃないのに。
ただ心配で、愛しすぎて心配で。
周りに散々過保護と言われても、それでも。
どうしても甘やかしたくて。
(でも、舞は怒っているから、機嫌取ってやらなきゃな)
詫びのつもりで買った、一輪の花を握りしめる。
きっと些細な贈り物のほうが、舞は喜ぶから。
舞の喜ぶ顔を想像しながら、秀吉は帰途の足を早めた。