第17章 Border Love / 信長、政宗
「さぁ、舞。 好きなほうを選べ」
信長に言われ、舞は正座をしたまま口ごもる。
その場を見守るのは信長だけではない。
政宗も、舞の言葉の先を固唾を飲んで待つ。
やがて、舞がゆっくり口を開いた。
「私が、選ぶのは…………」
その日の夜、安土城では宴が開かれていた。
信長、秀吉、家康、光秀、光成らと、少しの重臣。
政宗もその場に居た。
政宗か作った料理が並べられ、酒と共に胃袋を満足させる。
しかし、舞はその場に居なかった。
(舞は、どこ行ったんだ?)
先程、信長と舞は一旦席を立ち、しばらくして信長だけ一人帰ってきた。
それから、舞は姿を見せない。
(気にするなと言うのは無理だよな)
政宗は、陰ながら舞に想いを寄せていた。
信長のお気に入りの娘とは解っていても……
頭と心は別々のものだ。
理解は出来ても、それで納得は出来ない。
それに、政宗は知っていた。
信長が、毎晩のように舞に夜伽を命じている事を。
「すみません、遅くなりました……」
少しして、細々とした声とともに舞が帰ってきた。
心なしか、少し沈んでいるように見えるが……
「舞、こちらで酌をしろ」
「はいっ」
信長に呼ばれ、舞が皆の後ろを通り、上座へと向かう。
後ろを通り過ぎる時、政宗は舞の着物の裾を引いた。
「おい、舞」
「政宗、どうしたの?」
舞がその場にしゃがみ、政宗と視線を合わせる。
顔からは何も伺えないが……
「具合でも悪いのか?」
「え、そんな事ないよ?」
そう言って、舞はにっこり微笑む。
少し視線を外し、喉元に目を泳がせると……
(……っ!)
政宗は軽く息を呑んだ。
舞の首筋には、くっきりと赤い花びらのような痕があった。
見た感じすぐ付けたばかりのような……
男が自分のものと主張する、その赤い痕。