第2章 ぬくもりの分け方
「僕はいい啖呵だったと思いますけどね」
テンゾウの能天気な物言いに、カカシは額を押さえた。確かに普通の相手ならば、牡丹に手を出して内戦を引き起こす事の重大さに、身を引くだろう。しかし今回のように、我を忘れて襲いかかる者もいるのだ。
「今後僕らが始終護衛に着くのも無理がありますし、払える火の粉はご自分で払って頂けると助かります。最終的に危険な結界が破られた時のローテーションくらいは組んでおきますよ」
曖昧な返事をしながら、カカシは横目で牡丹を見た。見るからに疲弊している彼女を寝床に横たえたものの、眠ってはいない。こんな話を聞かせて良いものか。
「分かりました。努力します」
困り果てたカカシの代わりに明確な答えを返したのは、牡丹だった。床から上半身を起こし、まだ青い顔で薄く笑う。
「さっきだって、カカシさんが間に合わなくても、きっと無事だったのでしょう?」
案外、色々と勘付いているのかもしれないと、カカシは舌を巻いた。先ほど破られた結界は、感知用の外壁と呼ばれる部分のみだった。あのまま女が牡丹の喉元に食らいついたとすれば、変わり身と共に蟻地獄さながらの捕縛用結界が発動し、女を捉えていた事だろう。
「私自身でできることを、してみたいのです」
そう決め込む彼女の目は、顔色ほど弱々しくはなかった。殊の外、強情ではあるが。
あまり無理はしないでよ…
そう思わざるを得ないほど、彼女は消耗していた。